
長編
海につづく道
匿名 2016年8月26日
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霊的な話では無いですが数少ない体験談をお話しします。ダラダラと長いですがお付き合い下さい。
20年近く前、当時付き合っていた彼女とドライブに出かけた。何処に行って何をしたかは全く覚えていないが、よく使う瀬戸内海に近い県道を2時間近く西に走り、一頻り過ごした後、そろそろ戻るかと家へと車を向けた。
多分普段より海から離れ、知らない道を走っていたんだと思う。
音痴とまでは言わないが、それ程方向感覚に自信が無い私は、まずは来る時に使った県道まで戻ろうと半ば無意識に車を走らせた。
先に話したように瀬戸内を西に向かって走ると海は左手。帰る時は東に走り海は当然右手になる。その事を頭で考え、大きな道に出たらまず右折して県道に戻ればいいと、分かりやすい広い道は無いかと運転を続けた。
程なくして広くは無いが、かなり大きな川に沿った道にぶつかったので、これなら迷うことも無いかと右に折れた。多分まだ家までかなり距離があり、知らない道を延々と走るより早く慣れた道に戻りたかったのだろう。
道路は川を挟んで一方通行の一車線ずつだったと思う。走り難い程では無いが川に対して随分と細く古い道路だった。暫く走ると小さな漁船が沢山停泊しており、海に出たな、と思った。
だかおかしい。途中で必ずぶつかるはずの県道を見ていない。見落としたか、まだ先か、と考え、取り敢えずそのまま車を進めた。やはりおかしい。川幅はどんどん狭くなり、両脇の陸も少しずつ高くなっている。沿岸と言うより山間に入っていく様だ。
彼女を見ると少し不安そうだった。
いくら方向感覚に自信が無くても右と左を間違えはしないし、なんで?という気持ちが二人とも顔に出ていた。
「迷った?」と聞かれ、ちゃんと海に向けて走ってたよな?と言い訳を挟みながら「なんでか山の方に来とるな。まあ、川を逆に戻れば海に出るやろ」と橋を見つけ対岸の道で戻り始めた。
不思議な体験とかほとんど無い私は、さっきは間違えたとしても地理的に山から離れれば海に着くと、まだそれほど心配はしていなかった。多分彼女もそうだったと思う。
かなり時間を無駄にして日も落ちかけ、早くいつもの県道に戻りたいと少し飛ばし気味で走り続けた。
前にも後ろにも車の姿は無く、街灯も少なかったのかその時刻にしては暗く感じていた。この道に出て、引き返した港町までの時間よりさらに走ってもうそろそろかと思った時、その先の景色を見て初めてぞっ、となった。
漁船が川に浮かんでいる。暗くてもさっきとはまた違う港がウインドウ越しに見えた。船の数は先程の港より少なく全体的に寂れた雰囲気だった。だか私を怯えさせたのは港の背景にある山の影だった。このまま行けば確実に山間部に入ってしまう。
「なんで…」隣の彼女が思わず口にした。私も、ここはどこなんだ?川を下って何故また山に出る?そもそもさっきの港といい河口でもないのにこんなに船が停まっているものなのか?それまで気にしていなかった事まで頭に浮び、余計に不安になった。
それでもこんな馬鹿なことは無いと暫くは車を進めたが、私も彼女もこの先に海は無いと確信し、車を停めた。
この時点で彼女はかなり怯えており、正直私も相当怖くなっていた。さっき折り返した先がやっぱり海か?と二人で話し合ったが、お互い否定。
なら逆に向かったのになぜ海が無い?と考えるが分かるはずもない。可能性としては川が東西に曲がる中流で右往左往しているならそれもあり得るが、私達が走った距離や時間を考えると、この辺りにそれほど長く蛇行する川は無いはずだった。
陽もほとんど残っておらず、住んでいる街から距離があるとはいえ、地元で自分の居る場所が分からなくなるという怖さが増す中、とにかく灯りもないこの小さな港を離れようと、来た方向へ再び引き返した。
そこからは少しでも早くこの川沿いの道から抜け出すことばかり考えていた。川幅からは不釣合いに細く寂れた道が不気味に思えて来た。自分達が何処を走っているのかわからない焦りのせいか、この川沿いの道から出られないんじゃないかという説明のつかない恐ろしさまで襲ってきた。
最悪の場合、行きに来た道程をそのまま戻る覚悟で最初に右折してきた道を探した。もし見つからなかったらどうしようという思いも頭に浮かびもした。
道は見つかった。暫く戻って道路標識を確認出来たところで海沿いの県道に戻れた。
ずっと無言だった彼女が「ほんまに帰れんようなるかと思った…」とつぶやき、私も答えた。「俺もホンマに怖かった。こんなところで海を見失うか?わけ分からん」
そこから先は普通に帰宅することが出来たが、彼女の家で地図を広げ、どこを走ったのかを探してみても、海と山を間違えそうな川も、港がありそうな川沿いの道も見つけられなかった。
恐らくは我々の勘違いで、怖くもなんともない話だと思います。地図やカーナビでもあればあっさり帰れたんでしょうが、その時は本当に怖いと感じた体験でした。
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