
幽霊的なものじゃなくてすみません。
柱の陰に隠れる形で、うちのトランクルームだけが廊下の防犯カメラから死角になっていた。契約したとき、管理人は申し訳なさそうに言ったけど、私にとってはむしろ好都合だった。副業でアクセサリーを作っていて、材料も試作品も、見られたくないというより単純に散らかっているのが恥ずかしかったから。
港の近くの倉庫ビル。外は真夏で、建物の中だけが冷えすぎたコンビニみたいに寒い。薄い金属の扉が並んだ通路を歩くと、靴音が妙に響いて、誰かが後ろにいる気がして何度も振り返った。もちろん誰もいない。そういう場所だ、と自分に言い聞かせる。
隣の部屋の利用者が変わったのは、私がここを借りて二カ月目だった。番号札が新しくなっていて、扉の前に段ボールが置かれていた。平日の昼間、たまたま鉢合わせした時に、年上の男性が会釈してきた。作業用の手袋をしたまま、スマホで何かのメッセージを打っていて、私の顔を見る角度だけが妙に正確だった。変な人だ、というほどではない。ただ、視線が長い。自分の自意識のせいだと思って、私は鍵を回して扉の中に逃げ込んだ。
変だな、が最初に形になったのは、南京錠の感触だった。開け閉めのたびに馴染んでいくはずの金具が、ある日いきなり引っかかる。表面に細い擦り傷が増えている気もする。気のせい、たぶん気のせい。ここは共用だし、私以外にも管理人が点検で触ることはある。
でも、その日から小さい違和感が積み上がっていった。床に落ちているはずのない透明な結束バンドの切れ端。棚の奥に転がっていたビーズが、まるで並べ直されたみたいに一直線になっている。作業台の上に置いていたメモが、端だけぴったり揃っている。自分の手癖じゃない。なのに、証拠らしい証拠がないから、誰にも言えない。言った瞬間、私のほうが疑われる気がした。
追い打ちをかけたのは、ネットだった。納品用に撮ったアクセサリーの写真が、見知らぬアカウントに載っていた。背景が同じ。私の作業台の、削れた角まで写っている。写真の下には、たいしたコメントはない。かわいい、とか、欲しい、とか。むしろ淡々としていて、だから余計に怖かった。誰かがこれを、黙って集めている。
その夜、家に帰ってからも手が震えて、冷蔵庫の中身を出しっぱなしにした。自分が過敏になってるだけかもしれない。そう思っても、次に頭に浮かぶのは、じゃあどうしてあの写真があるの、だった。
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