
長編
ウサギ穴
匿名 6日前
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と音がしていた。僕は友達と顔を見合わせた。
「うわ、」
と友達が叫んだ。その手から巻き尺が離れて、穴の縁にぶつかった。巻き尺は穴より大きかったので持っていかれることは無かったけど。一度二度、びくんびくんとのたうってから、巻き尺は力尽きた様にその場に崩れ落ちた。
呆気にとられるという言葉があるけれど、僕はそれまでの人生でたぶん初めてだった。本当に呆気にとられたのは。
友達は無言のうちに、再び手にした巻き尺を巻き戻していた。
そのうち「うがにゃああ!」と猫の様な情けない悲鳴が聞こえた。そうして、しばらくもしないうちに県道側の穴でスタンバってた友達数人が走って来て。一人は足が絡まってこけて転んで転がっていった。僕の横を。
もう一人降りてきた奴の服の袖を掴んで、僕は訊いた。
「チャーボーは!?」
「知らん! 放せ!」
「話せば放す」
「だあもう! 穴がものすごい勢いで骨吹いた!」
それだけ言うと、そいつは校舎に向かって駆け降りて行った。何が何だか分からなかった僕はとりあえず、巻き尺の友達と一緒に、県道側の穴までいってみた。
確かに、そこには何らかの動物の骨が、穴を起点に放射状に散らばっていた。
小動物の骨だろうか。何もこびりついていない。白くて綺麗な、百点満点文句なしの骨だった。
チャーボーのかな、と僕は思った。それなら、悪いことをしたなあ。とも思った。
その日は当然、先生に怒られたけれど、僕はいつもと違って、幾分本気で謝った。「ごめんなさい。もうしません」もちろん、チャーボーに対して。
後日、僕は山に住んでいるじじいを訪ねて、その話をした。もちろん孫へのこづかいが目当てだったのだけれど。じじいなら何か知っているかもと思ったのだ。
「そりゃ、ヤマノクチやの」
とじじいは言った。
「やまのくち、って何や?」
「おまんの口と一緒や。山の、口」
じじいはそう言って、僕の下唇を掴んでびろんと伸ばす。口と聞いて、想像力豊かな僕はすぐにピンと来た。
「じゃあ、もう一つの穴は、ケツなん?」
「ケツやな。ヤマノシリ」
だとしたら。僕は気付いた。
だとしたら、チャーボーは、山に食われたのだ。
「なあなあ、じじい」
「なん?」
「ウサギってよ、美味いん?」
「うまい。くいたいんか?」
僕は首を振る。それにしても、山だとしても、いただきますくらいは言うべきだろうと、その時の僕が思った
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