
長編
『111』
(゜Д゜) 2021年1月7日
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小学生の頃、学校近くの公衆電話で夕方4時44分に『111』に掛けて受話器を置くと電話がかかって来て声がするらしい…という遊びが流行りました。
今もできるかわかりませんが、『111』にかけると折り返しかかってくる現象は電話機の配線がきちんと通っているかを確認する機能なのだそうです。
なので、その公衆電話に限らず、どの公衆電話からでも…何なら家電でもできたらしいです。
もちろん時間も関係ありません。
そんな理由など知る由もない小学生達は、放課後こぞってその公衆電話で『111』に掛けては「怖い~」と遊んでいました。
当然ながら学校からは【公衆電話で遊んではいけません】というお触れが出ていました。
『111』で掛かって来た電話に出るとどうなるかというと、実際は特に何もないんです。
受話器に耳をつけても無音。
そしてすぐに切れてしまうんです。
でもそれがまた逆に怖かったりしました。
何となくその遊びが飽きられてきた頃、「受話器から声が聞こえた!」と言い出した子が現れました。
その子は一人で『111』遊びをしたらしいのですが、受話器から低い男の人の声が聞こえたのだそうです。
何を言っているのか聞き取る前に切ってしまったので分からないけど怖かった…と。
その話はあっと言う間に学校中に広まり、当然確認したがる輩が沢山湧いて出るもので、放課後の公衆電話に列ができるほどでした。
時間などはもはや関係ありません。
すると嘘か誠かポツポツと「声を聞いた」と言い出す者が現れました。
しかし、ある者は「男が唸ってた」と恐々言い、ある者は「女の人だった!泣いてた!」と興奮気味に語るというように内容はバラバラでした。
そこは子供ですから、話題の中心になって注目を浴びたいとか目立ちたいといった心境でほらを吹いていた者がほとんどだったのではないかと思います。
私は極度の怖がりなので声が聞こえるなんて話が出始めてからは公衆電話に近づきませんでした。
そんな時、いつもつるんでいた友達Rが『111』を試したい!と言い出したのです。
もともと好奇心旺盛だったこともあり、ほぼいつも一緒にいた為断ることもできず付き合うことになりました。
冬に差し掛かった時期だったので4時半過ぎともなると結構暗くなります。
時計など持っておらず、ましてや携帯やスマホなどない時代ですのでだいたいの感覚で学校を出て4時44分までに着くように公衆電話へと向かいました。
どうしても4時44分時間通りに電話を掛けたかったRは、公衆電話に並ぶ必要があるなら延期!と言っていたのですが、その日は珍しく誰も居ませんでした。
Rは「そろそろかな」なんて言いながら躊躇なく受話器を持ち上げるとゆっくり『111』とプッシュし、少し受話器を耳元近くへかざしてから切りました。
程無くして電話のコールが鳴りました。
かかってくると分っていても心臓が跳ね上がります。
3コールか4コール目でRはそっと受話器を取り耳に当てました。
「もしもし?」
誰もいないはずの相手に向かってRは話しかけていましたが、案の定「やっぱり何も聞こえないや」と私に受話器を渡そうとしてきました。
その時…
「え?」
と言って、耳から放しかけた受話器を再びギュッと押し付けたのです。
「どうしたの?」
声を掛けるとRは「しーっ」と口元に指を立てジッと耳を傾けていましたが、しばらくすると小さく「ぃやっ!」と言いながら受話器から手を放してしまいました。
「何?何か聞こえたの?」
私はブラブラとぶら下がっている受話器とRを交互に見ながら尋ねました。
Rは「聞いてみて!早く!聞いてみて!」と私を急かします。
正直、そんな気味の悪い態度の後なので障るのすら嫌でしたが、友達が一緒にいるという心強さと好奇心、そしてRが私をだまそうとしているんじゃないかとの思いから受話器を耳に当ててみました。
受話器からは「ツーツー」という電話が切れた時の音しか聞こえてきません。
5秒ほど耳を澄ましていましたが特に変わらず、もう5秒ほど待ちましたがやっぱり「ツーツー」としか聞こえません。
「切れてるじゃん。何も聞こえないけど?ビックリするから冗談はやめてよ。」
私はホッとしつつ、Rに受話器を差し出しました。
「そんなはずない!」
Rは受話器をひったくるように奪い取り、耳に当て掛けると「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」と悲鳴を上げて逃げ出してしまいました。
薄暗い中に一人残された私は急いで受話器をつまみ上げ電話を切りました。
そして受話器を触った手に何となく気持ち悪さを感じ、近くの壁にこすりつけてから走って家に帰りました。
翌日から数日、Rは高熱を出したとかで学校を休みました。
私は前日の出来事を友人らに話しましたが特に広まることもなく、少し気になった者がまた公衆電話へと向かう程度でした。
翌週にはRもいつも通り元気に登校してきましたが、私と『111』に電話した時の事だけは何があっても頑なに話題にしようとしませんでした。
Rはいったい何を聞いたのか未だに分かりませんし、その公衆電話はいつの間にか撤去されていました。
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