
長編
蜂の巣校舎の怪
匿名 2024年3月30日
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これは僕が高校一年生のときに見聞きしたお話です。
僕の高校には蜂の巣校舎と呼ばれる上から見ると正六角形の独特な構造をしている古い建物がありました。当時僕は吹奏楽部に所属しており、その部室もこの蜂の巣校舎にありました。ある日、夏休み中ということもあり普段は教室として使用している別階の部屋を使い、複数人で分かれて楽器の練習をしていました。すると同室にいた同期の女子が「ちょっと背中見て!誰か見て!」と急に慌て始めました。その場にいたメンバー数人が確認しますが、至って普通の背中です。慌てる当人を宥め何があったのか聞くと、「背中が引っ張られてるの!今も!」もちろん誰も背中には触っていませんし、意味不明な言動に不気味がる子もいました。同性の子が背中を摩ってあげたり、虫が制服の中に入り込んだのではないかと確認したりもしましたが、結局何もありませんでした。当人も混乱しておりとうとう泣き出す始末。練習にならないので本人を連れて先輩らに相談することにしました。それを聞いていた部長が何かを悟ったように「今日はもう帰りな。先生には私たちから伝えとく」と冷静にその子に言いました。あまりのスムーズな対応に僕たちは違和感を感じたのを覚えています。すぐにその女子は帰り支度をしようとするのですが、「一人は危ないから誰か仲いい子一緒に帰ってあげて」と部長は僕たちに言いました。なぜそのようなことをいったのかこのとき誰も理解できていませんでしたが、怒ると怖いで有名な部長の発言に誰も何も言えず、その女子のクラスメイトの女子一人が一緒に帰ることになりました。二人が早退したのち、部活は何事もなかったかのようにその日は続きました。部活後、なにやら不安そうに話しをする先輩たちの様子を見て、気になった同期らが話を聞こうとしましたが、なぜか何も教えてくれなかったそうです。
次の日の部活、件の女子が交通事故にあったことを昨日一緒に帰った女子から聞き驚きました。詳細を聞くと二人とも自転車通学のため、帰りも通学路を自転車で帰っていた途中、並んで走っていたその子が急に倒れこみ、そこに自動車が接触したそうです。幸い怪我は転んだ時の擦り傷程度で済み、警察沙汰にすると面倒だと本人がいい、運転手からは謝罪と連絡先交換だけで和解したそうです。そのため病院に行くこともなくいまは自宅で安静にしているとのことでした。しかしなぜ部活まで休んだのか聞くと話の続きをしてくれました。
事故未遂のあと、心配したクラスメイトが自転車に乗れるか聞いたところ「怖いから自転車には乗りたくない、歩いて帰ろう」と何かに怯えた様子で答えたそうです。事故のあとということもあり納得したクラスメイトが続けて転んだ原因を尋ねました。すると「さっきまであった引っ張られている背中の感覚が急になくなったと思ったら後ろにすごい勢いで引っ張られてバランスを崩した」と答えたのち泣いてしまい、そのためなんども落ち着かせながら帰路に着いたそうです。その後はあの奇妙な感覚は消えたそうですが、なにかがその子の命を狙っているのではないかと思えてしまいクラスメイトは震えあがったそうです。本人の家まで送りとどけたあと、その子からクラスメイトに電話で外に出るのが怖くなったこととしばらくは部活を休むことを伝え、いまに至るそうです。話を聞いた僕たちも怯えに怯えその日は練習に集中することができませんでした。それからしばらく経ち、件の女子は無事部活にも復帰しましたがあの奇妙な感覚と体験のことを忘れることができないそうです。ちなみに、先輩らにこの話をしましたが、「〇〇ちゃんは大丈夫なの?事故しかけるとか運転手の不注意すぎ」とあからさまに奇妙な感覚についての言及を避けている感じがしましたが、思えば先輩たちも相当怖がっておりあえて逸らしていたのだと思いました。
そのちょうど一年後、色々あって部活を辞めた僕は進学クラスに移り学校の夏期講習を受けていました。件の話を少し忘れかけているなか、休み時間中に怖い話をすることになりました。すると世界史を担当していた当時学校でいちばんの古株のおばちゃん先生も話に混ざり自身が体験した話を2、3話語ってくれました。
その中の一つに「蜂の巣校舎には女子生徒の霊がいる」という話をしてくれました。先生がまだその学校に就任したての時、当時今のように男女共学ではなく女子校だったそうで、その頃から蜂の巣校舎もあったそうです。そしていつからかその蜂の巣校舎には、昔入学する前に無念にも亡くなってしまった女子生徒が、学校に行きたいという強い思いから当時の制服のままそこを彷徨っているという話が出回ったそうです。幽霊というのをこれっぽっちも信じていないおばちゃん先生は当時、生徒たちの単なる作り話だろうと思っていました。しかし、去年の夏休みのある日、先生は学校の見回りを担当していたそうです。中央の螺旋状に続く階段を登りながら見回りをしていると不意に上から視線を感じ見上げました。すると最上階の階段の手すりから三つ編みの女子生徒が覗き込むようにして顔を出していました。その生徒と目が合うと思うと顔はすぐに引っ込んだそうです。慌てて階段を駆け上がりました。なぜなら、その日は吹奏楽部も含めて一切の部活動が休みであり、校舎はおろか敷地内に生徒がいるはずがない日でした。施錠されていた鍵を開けたのはもちろん見回りをしていた先生だけでありその校舎に自分以外誰もいるはずがありませんでした。しかし、生徒がいたということはイタズラか何かしているのではと思ったそうです。最上階に着きますが誰もいません。教室はもちろん窓もすべて施錠されており人の気配すらありませんでした。先生は狐につままれたような気分になりましたが、一応注意を払いながら見回りを続けるため下の階に向かおうと階段を降りようとすると、なんと下の階の廊下に先ほどの三つ編みの生徒が歩いているのを目撃しました。声をかけようとしましたが、あることに気づきやめました。現在の生徒が着ているはずのない女子校時代の制服でした。しかも新しめなのかしわひとつなかったと言います。気づくとその生徒は消えており、先生はあれが件の幽霊だと確信したそうです。
この話はそのときの怪談のなかでMV賞をとりました。そのことで盛り上がっていたなか、交通事故つながりで僕は去年に奇妙な体験をした同期の女子の話を思い出し、その場で話しました。
すると先生は驚き、「それはどこで起きたの?」
と焦る口調で聞いてきました。場所までは聞いていませんでしたが、僕と同じ桜並木の通学路を自転車で登校する姿を見たことがあったため、そのどこかであると答えました。先生は思い出すようにして、先ほどの後日談を語ってくれました。
そのおばちゃん先生の唯一の先輩にあたる校長先生に何かの席でその蜂の巣校舎での話をしたところ、実際に入学前に交通事故で亡くなった女子生徒がいたらしいのです。そしてその事故現場が奇しくもその学校に面する桜並木だったそうで、しばらくは生徒たちへの配慮と交通安全の目的でそことは違う道を使って通学させていましたが、事故の件が落ち着いてからは桜並木側の校門を開け通学路はもとに戻り、現在まで使われているそうです。
このとき僕は、去年同期の女子を襲った何かの正体を考え悪寒を感じました。そしてかつて部長たちが不安そうにしていた話の内容ではないかと考え、その蜂の巣校舎の話を僕らのほかに、先輩たちなどに話したのか聞くと生徒に話したのはこれが初めてだと答えました。
では、一体何に先輩たちは怯えていたのか、先生の見たという女子生徒のことを他にも知るひとがいるのか、そもそもそのことと去年のことが果たして繋がっているのか、、、。
蜂の巣校舎は僕たちの代で取り壊され新しい校舎が建っています。そんな今となってはそれらを知る術がないことが残念です。
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