
これは友人から聞いた話です。仮にその友人の知人を「美沙」と呼ぶことにしましょう。
美沙は大学卒業後、地元の田舎町から東京都心に引っ越してきました。冬の冷たい夜、彼女は駅から地下鉄に乗り込み、一人暮らしを始めたばかりの部屋へと帰るところでした。
その日は仕事が終わってから友人と飲みに行ったため、少し酔いも回っていました。美沙はいつも通りの時間に、いつも通りの車両に乗り込みました。車内には人が少なく、彼女は窓際の席に腰を下ろしました。
しばらくして、隣に座った若者が何かを小声でつぶやき始めました。最初は気に留めなかった美沙ですが、酔いが心地よく、ウトウトしていると、その声が耳に入ってきました。
「…み…さ…の…じゅうしょ…」
その瞬間、美沙の心臓は跳ね上がりました。彼女は思わず目を開け、隣の若者を見つめました。すると、彼はニヤリと笑い、手に何かを持っているのが見えました。それは彼女の住所が書かれたメモでした。
恐怖に駆られ、美沙は急いで次の駅で降りる決意をしました。駅に着くと、彼女は振り向き、若者の顔を確認しましたが、見覚えがないどころか、彼はそのまま微笑み続けていました。
その後、美沙は早急に引っ越しを決め、地下鉄には二度と乗らないと心に誓いました。だが、夢の中でその若者の笑顔が何度も繰り返され、彼女の心に恐怖が残り続けるのでした。
それ以来、彼女はどこへ行くにも、後ろを振り返る癖がついてしまったのです。自分の後ろにいるかもしれない影を警戒しながら。
「あなた、どこにいるの?」と心の中で問い続ける美沙の目には、いつも誰かの影が映り込んでいるのです。
それは今も変わらず、彼女の心を蝕んでいます。
その影は、まだ彼女の帰り道を見守っているのかもしれません。
そして、彼女の住所を知っている者が、今も近くにいるのではないかと。
美沙は無意識に振り返りながら、今日もまた帰路につくのです。
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