
中編
赤い部屋(タクシーの怖い話)
匿名 2021年8月5日
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俺は41歳のタクシードライバー、この歳でも独身だ。
「タクシーって怖い体験とかあるんでしょう?」とかよく聞かれるけど、何十年もやってればそりゃあるよ。
威圧的なコワいお客さんってのも見たことあるし、不気味って意味での怖いお客さんも見たことある。そう言う商売だからね。
そんななかで、とっておきの話を。
その日は、少し肌寒くなってきた秋の夜だった。
なぜか嫌な予感がする夜だった。変なお客さんに当たるんじゃないかなって。
駅前や繁華街を走っているときは街の灯りでホッとする感じもした。
しばらく明るい街の中を走らせていたが、なかなかお客さんに当たらなかった。
俺は、特急が停まる市の中心駅の駅前に停めていると、しばらくして若い女性が近づいてきた。俺は後部ドアを開けると女性が入ってきて、
「○○町までお願いします。」
女性は24才くらいで、二重まぶたの小顔で胸あたりまであるストレートの黒髪ロングヘアのかなり綺麗な女性だった。ごく普通の女性で何かありそうなこわさはなかった。
「はい。かしこまりました。」
俺は車を走らせた。俺が車を走らせているとき、バックミラーを見ると女性は黙って前を向いていた。バックミラー越しに俺と目が合う。最近の若い女性などはスマホをいじっていることが多いのだが、女性はスマホは勿論なにかを取り出すことは全くなく、ただ前の景色だけを見ていた。俺はちょっと変わった人だと思ったが、フロントガラスの景色を見るのが好きなのかなと思った。
そして、女性に言われたように○○町に向かう。○○町は町外れのどちらかというと民家の少ない場所にある。○○町に近づくと、
「どこらへんで下りますか?」
と聞くと、女性は
「もう少し進んでください」「そこ、右です」
と案内してくれた。女性に言われるように進むと、そこは民家などが見当たらないさびしい場所だった。草などが生い茂っていて舗装されていない砂利道だった。
そして、これ以上車で進めなさそうなところまで来ると、
「はい。ここでいいです。」
女性はそう言い、運賃を支払った。
女性が降りるととともに、俺も車から降りてあたりを見渡すと、近くに民家などない何もない場所だった。俺は少し心配になり
「この近くに家があるんですか?」
女性も少し不審そうに
「そうですけど?」
「もしかして遠いんじゃないですか?」
「大したことないですよ?10分くらいです。」
「10分?こんな夜道を若い女性が歩くなんてとんでもない!私、送って行きますよ!」
「結構です!」
女性は強めに言ったが俺は
「いえ、何かあったらと心配なので・・」
女性からすれば「そういうあんたが心配だよ!」と思われても当然だが、俺は曲げなかった。
俺は細く狭い山道を女性とともに歩いた。
女性は不機嫌そうだったので、何も話さず黙って歩いた。
しばらく歩くと、平屋建ての一軒家が見えてきた。
家には灯りはついてなく物音もしない。女性は一人暮らしなんだろうか。
良かった。ちゃんと帰る場所があったんだと安心する俺。
女性は
「ありがとうございました。」
と淡々と不機嫌そうに言い、家に入っていった。
俺は女性が部屋に入れて安心すると同時に
「こんな場所で女性が1人で暮らしているなんてどういうことだ?」
という疑問が浮かんだ。
俺はいけないと思いつつも、女性の家の玄関のドアにある鍵穴から中を覗いてみた。
するとドアの向こうは真っ赤だった。
俺は「赤い紙か何かで鍵穴を塞いであるのかな」と思って、もと来た道を引き返して行った。
タクシーを営業所に戻したところで、仕事上がりの同僚と偶然会い
「ラーメンでも食いに行かないか。」と誘われた。
そして同僚と一緒にラーメン屋へ。
ラーメンを食べながら、俺はさっきの不思議な女の話をした。
同僚は
「その女、俺も乗せたことあるよ!○○町の女だろ?」
「うん、何気に可愛いよな!」
「本当だよな!」
そして俺は飲んでいたこともあり、覗いたことを話してしまった。
「誰にも言うなよ?俺さ、覗いてみたんだよ。その女の家の鍵穴を・・」
俺はニヤニヤ笑いながら言ったが、同僚はなぜか真剣な顔をしていた。俺は
「なんだよ?覗きは犯罪だってか?」
「そうじゃない。お前、知ってるか?なんで鍵穴が真っ赤なのか。」
同僚は俺を見ながら真剣な目で
「その女、目が真っ赤なんだよ!」
そう聞いて凍りつく俺。
あのとき、真っ赤に見えたのは・・・。
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