
長編
8月はこんな話でも
匿名 5日前
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なんだろ。あなたと会えなかった世界なんて、パラレルワールドにもあり得ないわ」
安アパートの、通販で買ったソファーで彼女の肩を抱きながら、時間の経つのも忘れて話しをした。
「高校まではずっと野球部だったけど。その頃の話でね…」
俺は高校までは野球漬けの生活だった。
進学校の弱小野球部、3年間で公式戦では一度も勝てなかった。
それでも俺が部活を続けていたのは、試合ではいつも、いや、日頃の練習でもなぜか俺達を見に来る、
野球好きらしい女の人の存在があったからかもしれない。
その人はいつも同じ格好をして、俺達の試合や練習を見に来ていた。
不思議とチームメイトたちは気が付いていないようで、俺が話題を振っても「何それ?」という具合。
黒のミニスカートにタンクトップ。真夏でも紅いスイングトップを羽織って。
ショートの髪型とハイヒールが『大人の女』そのもので、俺はずっと気になっていた。
「たぶん、高校のOGなんだろうけど。
でも、俺らの高校が共学になったのはそれほど前じゃないし、
野球部はずっと弱小チームだったから、わけが判らないのだよなあ。
OBの話でも女子マネージャーはいなかったって言うし、単なるファンなんてありえないのだけどなあ」
「あなたの憧れのひと?もしかして初恋のひと?」
「そんなんじゃないんだけど。たぶん、君に似ていたんだよ」
「わたしと出逢うよりず~っと前でしょ!」
「それが時間的に前の事象だと決定できるの?」
「物理の話してるんじゃないでしょ!ふふっ。あなたは憧れてたんだ。そういうお姉さんに」
「お、俺はそんなこと(野球部)しながら、大学受験は大丈夫かクヨクヨしていたただの迷い子だったよ!
話しかける勇気もなかったさ」
夜中に電話で起こされた。
なにか気がかりな夢をみていた記憶はある。
起きたときに涙で視界がぼやけているのが、自分でも訳が分からなかった。
『おい!そこを動くな!今から行くから、とりあえず目を覚ましておけ!』
友人のSからの電話だった。
Sが部屋に来てからの記憶は飛んでいる。
霊安室でベッドでもない妙な台に横たわった彼女は、いつもの姿ではなかった。
黒いミニスカート、紅いスイングトップ、ショートヘアー、ハイヒール。
彼女の友人らしい女の子が、泣きじゃくりながら俺を責める。
いや、俺を責めていたわけではないのだろう。
「あなたに、あなたに見せるんだって言って。私とこの服買いに行った
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chat_bubble コメント(9件)
- 独特な書き方と時系列の構成が実に上手い。無駄な情報が無く見えるのは数学好きだからか‥ 悲しい内容ながら羨ましくも感じられる話でした。彼女さんのご冥福を祈ります。マッドハッター
- 共鳴した!位相幾何学を大学院で専攻した あげく、今は日雇い労働をしながら生きる 俺に僅かな接点を感じる 俺の方がクズだけどな匿名
- 全ての事象に理屈を付けたがる理系の文章かな?実に面白い。たりた
- このええ話を侮辱する奴の神経が理解できんなーぽん
- すげー電波な怪文書。
- もう8月じゃないよ敦子
- 学習塾に行かされて、役にも立たないテストで点を取る訓練ばかりやってて頭がおかしくなったか?ううん?
- か…感動!!雨音
- 悲しい話や・・・(´;ω;`)怖い話好き