
中編
美しい双子
ソラン 2020年7月23日
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何気なく祖母とテレビを観ていました。
私はおばあちゃん子でした。
母は忙しく遊びまわるタイプでしたから。
ワイドショーだったんでしょうね。
俳優の不倫疑惑の話題を真剣に話し合っていました。
そのとき、祖母がテレビ消しました。
「女を裏切る気持ちってわかるかい?」
私は小学校低学年でした。
「よくわからない。結婚ってお互いを好きって思ってするものじゃないの?」
「そうだねえ。皆んなそう思って結婚するんだろうねえ。今の人たちは…。」
祖母は続けました。
「おばあちゃんの田舎でね。お坊さんが居たんだよ。女癖が悪いって評判の人でね。ゆくゆくお寺を継いで住職さんになる人なのにね。でも、昔の田舎町だからね。その坊主の女遊びを皆んな楽しんでたんだろうね…。」
私は黙って聞いていました。
「その坊主がね。結婚したんだよ。ちょっとぽっちゃりした愛嬌のある人だったね。町の皆んなはびっくりしたんだよ。あの坊主は誰の目にも美人と思われる女と結婚するもんだと思ってたからねぇ。
お前も可愛い子が好きかい?」
「可愛い子が好きだよ。幼稚園でも可愛い子が人気だよ。」
「そうかい。そうかい。男っていうのはね。本当に可愛いだの美人が好きだね。
でも、その坊主はあえて美人を選ばなかったんだねぇ。自分の好き勝手にしたかったからだよ。」
祖母の言っている意味がよくわからず、ただ頷いていました。
「その坊主はね。結婚しても女遊びをやめやしなかったんだよ。色んな女と遊んでね。ぽっちゃりしてた奥さんは、どんどん痩せていったよ。
結婚して3年たった時ぐらいかね?
あの奥さんはいつ妊娠するんだ?って噂が立ったんだよ。あの女は妊娠しないのかって笑うやつらもいたよ。酷い話だね。わたしゃ結婚もしてなかったけどね。仕事に夢中だったからねぇ。
妊娠しない女は離縁する。なんて事もまだまだあった時代だったね。
酷いもんだね…。わたしゃ男が羨ましかったねぇ…。」
私は話を聞き続けました。
「その坊主の愛人の1人の女が妊娠したんだよ。その少し後かね?奥さん病気になったって噂が立ったんだよ…。わたしゃ可哀想だと思ったよ。
散々女遊びをされて、病気になるなんてね…。」
「おばあちゃん。何か飲む?」
私は自分が喉が乾いてきたので、祖母に聞きました。
「そうだねぇ。お茶を入れてくれるかい?」
私は、なんとなくお客様用の緑茶を入れました。
「その坊主は自分の子供を妊娠したその愛人に夢中になったんだよ。
東京のバーに勤めてた女だったらしいねぇ。
美人で華やかな若い女だったよ。」
お互いひと口お茶を飲みました。
「坊主の奥さんがね、亡くなっちゃったんだよ…。まだ若かったのにねぇ…。」
おばあちゃんはなんでこんな変な話してるんだろう?
どうしても僕に伝えたいんだろうか?
「その奥さんの最期がね。
お前と女の子供は決して健康ではない。
そうさせてなるものか…!
そういう噂が流れたんだよ。
坊主はお寺の息子だったからね。その男の女房の最期の時は何人もの人間がいたのかねぇ?」
「おばあちゃん?この話を僕に聞いて欲しいの?」
「そうだねぇ。お前は男の子だからね。
わたしゃ聞かせたいね。間違いを起こして欲しくないからね。
坊主はね、妊娠した愛人と再婚したんだよ。
女も坊主も幸せそうだったよ。そのまま順調にいって双子が産まれたんだよ。
あの奥さんの言葉はなんだったんだろうねぇ。
健康で綺麗な双子の男が産まれたんだよ。
私も何度も見かけたんだけどね。
色白で顔が整っててねぇ。
大人しくって。落ち着いてて。
皆んなため息をつくような、お人形さんみたいな美しい双子だったよ。」
私は美しい日本人形の男の子を思い浮かべていました。
「その子達はね。
耳が聞こえないって事がわかったんだ。
坊主と後妻さんはもう1人子供を作ったよ。
耳が聞こえない子だったよ。」
なんだか恐ろしくなってきました。
「坊主はね。必要最低限は全く口がきけなくなっちゃった。
耳が聞こえなくなっちゃったんじゃないか?
って皆んな思ったぐらいだよ。」
後日談:
- 祖母から聞いた話です。生きていたら100歳以上です。 そのあたりの事情をふまえ読んでいただけたら幸いです。
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