
私は小さな美術館で学芸員として働いています。地域の文化を保存するために、寄贈された品々の整理や展示に日々追われています。特に秋の夕方、薄暗くなる時間帯には、館内に独特の静寂が広がります。
その日、私は展示室で新たに寄贈された古い陶器を整理していました。陶器には、地域の伝説に登場する不気味な彫刻が施されており、手に取ると冷たい感触が指先に伝わってきました。周囲の住民からは、「それには呪いがかかっている」と噂されていましたが、学芸員としてはそんな迷信を気にすることはありません。
また、私の職場では、時折不思議な出来事が起こります。特に、陶器の整理をしていると、突然展示室の扉が開く音が聞こえたり、足音が響いたりすることがありました。しかし、誰もいないはずのその場で、何かが触れているような感覚がすることも少なくありません。
一つの陶器を整理している最中、私はふと思い出しました。過去にこの美術館で行ったワークショップで、参加者の一人が「この陶器の声を聞いたことがある」と言っていたのです。彼は陶器に耳を当てて、何かを感じ取ろうとしていました。しかし、その陶器はただの土で作られた物に過ぎないと思っていた私は、彼の言葉を軽視していました。
その夜、帰宅する際に、ふと美術館の駐車場で立ち止まり、心の中で呟きました。「陶器の声を聞いてみたい」と。まさにその瞬間、館内から微かな声が響いてきたように感じました。「助けて、ここから出して…」と、まるで陶器が訴えているかのようでした。驚きと恐怖が同時に襲いかかり、私はその場から逃げるように車に乗り込みました。
翌日、再び美術館に足を運ぶと、展示室の陶器が一つだけ動いていることに気付きました。明らかに、先日整理した位置からずれていました。周囲のスタッフに尋ねても、誰も触れていないと言います。私はその陶器を手に取り、耳を近づけると、「ここが悪い、私を忘れないで」という声が聞こえました。
その瞬間、陶器が持つ歴史や住民の思いがこみ上げてきました。私がこの作品をそのままにしておくことはできないと感じ、陶器を特別展示に加えることにしました。これが、地域の伝説と共に大切にされるべき存在であることを理解したからです。
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