
長編
ウルドゥー語に呪いを込めて
しもやん 3日前
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「それに誰かさんが失敗したから、人さまに頼るんやないか」
そこを突かれると痛い。それでも食い下がった。
「それは申し訳ないんですけど、この〈渋沢興業〉言うんは……」
「ええから電話せえ。武士の情けで最後通告だけはしたれよ」
* * *
予告なく債権を他社へ売却するのはさすがに道理に悖るということで、1か月の猶予を与える仕儀となった。
モハメドさんへ①耳をそろえて全額支払うか、②他社へ債権を売却するかどちらかになる、と伝えると、例のごとく「払う、払う。ワタシマジメ」と適当な返事が返ってきた。
おそらく彼はうちの会社が本気で債権の転売などするはずがない、と高をくくっていたのだろう。
1か月後、予想通り1円も入金されずに期限日がすぎた。わたしは重苦しい気分を振り払い、渋沢興業とやらいう怪しげな会社に電話をかけた。
* * *
市外局番の06から始まる番号に電話すると、ワンコールめで即座に出た。ほとんど怒鳴っているような声量だった。
「渋沢興業!」
「こちら**海運と申しますが、桑原さんはおみえでしょうか」
「……どんなご用件すか」
総務部長の名前(堀田)を出し、彼の紹介で桑原氏に債権回収を依頼したい旨を告げた。相手は保留にしないまま大声で桑原氏を呼びつけているようだった。「桑原さん、整理の仕事みたいっすよ」、「誰からや」、「ようわからんのですわ、なんとか海運とか言うてますねん」、「ドアホ、おどれは電話の取り次ぎひとつできへんのか――」。
いい加減電話を置きたくなったあたりで取り次がれた。
「えらいお待たせしてすんまへんな。堀やんの紹介で電話してくれはったとか」
〈堀やん〉はうちの総務部長のことだと気づいた。どんな因縁があるのか不明だが、部長と桑原さんは昵懇の仲であるらしい。
「そうです。焦げ付いた債権を売りたいんですが」
「そらよろしいな。早速承りまひょ」
詳しい状況を説明し始めると、桑原氏は途中から何度ももうええ、もうええとくり返し、詳細をぶった切ってしまった。
「先方の連絡先と住所。それだけあれば十分ですわ。残債になっとる請求書だけ送ってくれたら、あとはこっちでやっとくさかい」
わたしは勇気を出して聞いてみた。
「買値はいくらになるんでしょうか」
「堀やんの紹介やから、色つけさせてもらいまひょ。簿価の15パーセントでどうですや
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- 久々の新作は人怖モノで新鮮でした。次回作にも期待します。防空頭巾