
長編
ウルドゥー語に呪いを込めて
しもやん 3日前
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湿度0パーセントまで持っていく。それが彼らのやり方であり、その結果債務者が絶望の果てに自殺することはある。だが殺してしまっては元も子もないはずだ。
高額の生命保険を債務者にかけ、事故に見せかけて殺害し、保険料を受け取ることで債権回収にあてるのは非現実的である。
どれだけ巧妙に事故を装おうとも、赤の他人が受取人になっていれば保険会社は疑義を抱く。徹底した調査がなされる。不審な点があれば警察に通報される。ひとたび警察組織が動けば、杜撰な殺しなどたちどころに露見してしまうだろう。
反社が堅気を殺した場合の量刑は、同じ殺人罪でも段違いに重い。10年以上食らいこむのは覚悟せねばならない。
モハメドさんの債務は三百万円もなかった。たったこれぽっちのために殺人を犯すのはリスクが高すぎる。そう思っていた。
しかし、こんな考察は所詮堅気の考え方にすぎない。
モハメドさんの(だと思われる)遺体が発見されたというニュースを見てから、さんざんこのことについて考え抜いた。
もし自分が債権を買った反社なら、どうやって17.5パーセント以上の利益を上げるだろうかと。
親兄弟を保険金の受取人にしておき、彼らが死亡給付を受けたその日から追い込みをかける。
他の消費者金融から借金させて返済に当たらせる。
死亡保険の自殺免責条項をかわすため、事故にみせかけた自殺を強要する。
素人のわたしが考えついただけでもこれだけある。犯罪のプロである反社なら、1ダースは手段を用意できるだろう。
十中八九、モハメドさんは殺されている。
死の間際、わたしに抱いた恨みの深さはいかほどだったろうか。
総務部長へは一部始終を報告した。彼は煙草をふかしながら、「さよか」とつぶやいただけだった。
* * *
つい先日、ニュースになった海岸へ出向き、花束を供えてきた。
直接手を下したわけではないが、責任の一端はわたしにもある。
無神論者であるわたしにとって、この行為は供養ではない。ただの自己満足にすぎない。
それでもやらずにはいられなかった。
モハメドさん、どうか恨まないでください。
図々しく感じるだろうが、読者も彼のために祈ってやってほしい。
少しでも、彼の怨嗟が晴れることを願って。
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- 久々の新作は人怖モノで新鮮でした。次回作にも期待します。防空頭巾