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長編

ウルドゥー語に呪いを込めて

しもやん 3日前
怖い 60
怖くない 15
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すいまへんな。こないだパキスタン人の債権売ってもろた兄ちゃん、いてはりますか」  相手は名乗らなかったが、渋沢興業の桑原さんだとすぐにわかった。心拍数が跳ね上がる。絶対にロクな用事ではない。 「わたしです。どんなご用件でしょうか」  相手が海の近くにいるのか、波の音がしきりに聞こえていたのを覚えている。 「遅うまでご苦労さん、そうビクビクせんでもええがな」桑原さんは電話口で愉快そうに笑った。「パキ野郎のモハメドのことなんやけどな、なんや知らんアンタと話したい言うねん。そやし、ちょっと時間もらえんか」  こちらが了承する前に、モハメドさんの声が耳に飛び込んできた。 「なんで勝手にワタシの借金、売った」  電話口からは荒れた海を想起させる、波しぶきのような音が絶えず聞こえてくる。そのせいで聞き取りづらいのだが、債権整理に対して怒っているらしいことはわかった。  モハメドさんは難しい日本語の語彙を解さないので、逐次英語を混ぜつつ説明した。売却予告はしたこと、モハメドさんからの入金が期日までになされなかったこと、上司の指示であること――。 「ワタシ、マジメ。少し払ってた。逃げなかった。なんで売った」  わたしは説明を簡潔にくり返した。彼は聞く耳を持たず、壊れたレコーダーのように「なんで売った」を連呼している。  答えるべき言葉が出てこない。ただひたすら、彼の気が済むのを待ち続けるしかなかった。  唐突に「なんで売った」がやんだ。波の音が途絶え、一瞬だが通信状況がクリアになる。モハメドさんは1秒強ほどの短いセンテンスを、母国語と思われる言語でゆっくりとしゃべった。  ウルドゥー語だったのかパシュトゥン語だったのか、知る由もない。なにを言ったのかはいまもわからない。ただ意図だけは明確に伝わった。  わたしに対する、底知れない呪詛と怨嗟。  直後、電話が切れた。  かけ直してくることはなかった。当然、こちらからかけ直すこともしなかった。  わたしは明日カットの輸出案件を放置したまま、逃げるように帰宅した。      *     *     *  数週間後、日本海側の某断崖絶壁の海岸で、身元不明外国人の遺体が発見されたというニュースが目に飛び込んできた。  反社会的勢力が債権回収にあたる際、わたしは原則、債務者が殺されるケースはないものと思っていた。  債務者から徹底的に絞りとり、出がらしになった雑巾をさらに絞って

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  • 久々の新作は人怖モノで新鮮でした。次回作にも期待します。
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