
長編
リアルなゲーム
匿名 2022年4月26日
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ある日、俺は彼女と見本市を回っていた。
ドーム球場程の広い会場の中で、最新の家電やゲーム機などが多くの新商品や試作品などが並んでいた。
彼女は俺と手を繋ぎながら興味深くいろいろな商品を見ていた。
その中で目を引いたのは、
「人生バーチャルゲーム」
というPRの看板と、最新型のゲーム機だった。
俺と彼女は不思議そうに眺めていると、店員が来て
「これは、人の一生を体験できる機械なんです。」
「人の一生?」
「そう。人の一生そのものをね。体験してみますか?」
「でも時間かかるんじゃないの?」
「とんでもない!一瞬で終わりますよ。」
「一瞬で?本当に?」
彼女も俺に
「面白そう!やってみて!」
というので、体験してみることに。
そして、ゲーム機の扉を開けて中に入った。
「では、ごゆっくり!」
と店員が言った。
中に入ると椅子のようなものがあり、そこに腰掛けると急に目の前が真っ暗になり、電気を消したときのように意識が途切れた。
・・・
それは、まさに人間の一生そのものだった。
ゲーム開始前の記憶は全て消えたところからはじまる。
赤ん坊が母親の胎内で育ち、産声とともに新しい世界に生まれる。
両親のたっぷりの愛情のもと育ち、2年後には妹もできた。
その後は幼稚園に入り友達もできて、言葉もたくさん覚えた。
そのあとは小学校に6年間通い、思春期を迎えて大人の体つきになり中学生に。
中学校では運動系の部活に励み、高校受験を経て高校生に。
高校では初めての彼女ができて、また進路について考えた。
そしてまた受験を経て大学生に。大学では課題や論文に追われながらも、サークルや飲み会など学生時代を満喫し、そして就活へ。
苦労しながらも内定を勝ち取り会社員になった。
社会人になると上司や取引先などの人間関係に悩みながらも、仕事に生きがいや責任感を持って取り組んだ。
数年後には当時の恋人と将来を約束し結婚。その後は家を買い、息子や娘も生まれて妻とともに苦労しながらも必死に育てる。
子供達も就職や結婚などで巣立っていく頃には、定年退職。老後は趣味や近所付き合いを大事にし、孫の顔を見て喜んだ。
その数年後には老化が進み、体にも負担がかかっていた。
そして妻や息子や娘たちに見送られながら生涯を終える。
・・・
・・・
目を開けるとゲーム機の中だった。
不思議な機械が並ぶ小部屋で椅子に腰掛け、ゲームが終わったからか映画館のように薄い明かりがついていた。
そうだ!ゲームしてたんだっけ。
やっぱり、長かったな。
彼女怒ってないかな。
俺は扉を開けてゲーム機から出た。
すると、彼女は俺を見て驚いた顔で
「えっ?もう終わったの??」
店員はニコニコと俺を見ていた。
彼女が言うには、俺がゲーム機に入ってから出てくるまで1分程度しか経ってないと言う。
その1分のうち大部分はゲーム機の中に入る時間や出る時間なので、実質のプレイ時間はほぼ0秒だった。
俺はゲームの中で何十年という長い年月を過ごしたにも関わらず、ゲームの外ではほんの一瞬だった。
ゲームの中では消えていた元の記憶も戻っていて、逆にゲームの記憶が昨夜の夢のように薄れていた。
そのあと彼女が
「私もやってみるね。」
と言って中に入り、やはり1分もしないうちに戻ってきた。
戻った直後の彼女は、若さはそのままだが表情がおばあさんのように見えた。
しばらくするといつもの彼女の顔に戻ったが。
俺と彼女は店員にお礼を言い、その場をあとにした。
俺は彼女に
「どんな人生だったの?」
と聞くと、彼女は少し困った顔をして
「何か、女の人の人生だったよ。」
「そうなんだ?どんなの?」
すると、彼女は少し考えて
「それは・・秘密!」
「教えてよ!」
「ダメダメ!恥ずかしいし。」
苦笑いをする彼女。
「まさか、俺よりイケメンの彼氏と結婚とか?」
「違う!そういうのじゃない!」
「じゃあ。どういうのなんだ?気になるなぁ・・」
俺と彼女は冗談混じりにじゃれあっていた。
・・・
(解説)
解釈①
主人公(俺)たちは、そもそも人間かどうかも分からない。
人間を客観的に見てる宇宙人か、そもそもこの世界(我々の住む宇宙)にいるかどうかも分からない謎の生き物である。
我々の今生きている人生も、実はこんなオチなのかも知れない。
解釈② (解釈①とは無関係)
主人公(俺)が見たゲームはそれ程問題ないが、彼女が見たゲームは偶然か必然か、彼女自身の人生だった。(但し堂々巡りになってしまうため、ゲームの中での『このゲームを体験する部分』はないものとする。)
その先には壮絶な未来が待ち受けていて、ゲームを終えた彼女がおばあさんのように老けてやつれた顔をしていることが物語っている。
目が覚めたあとは、主人公と戯れ合うことによって悪夢を忘れようとしているのかもしれない。
そして彼女が見た悪夢は、主人公にも関係することなのだ。
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