
私が通っていた小学校の裏には、村の人々に「忘れられた木」と呼ばれる古木があった。
「その木の下で願い事をすると、叶う」という言い伝えがあり、子供たちの間では「特別なスポット」として知られていた。
誰もが、忘れられた木の下で、自分の願いをこっそり思い描いていた。
※
私が新入生だった頃の話である。
その日、私は、心躍らせながら、放課後の山小屋の扉を開けた。
「やあ、どうしたの? 何か特別なことでもあった?」
そこには、私が憧れていた若い教師、田中先生がいた。
彼女は、優しく明るい性格で、私の好きな本の話で盛り上がるうちに、親しい友人のような関係になっていた。
「先生、聞いて! 私、初めて自分の願いが叶ったみたい!」
興奮して震える手で、私はその時の出来事を語った。
「本当に? どんな願い事が叶ったの?」
「昨日の放課後、忘れられた木の下で願ったことが、次の日に実現したの!」
田中先生はニヤリとしながら言った。「それは素晴らしいね。やっぱり、その木は特別なんだね。」
「うん、でも……実は、ちょっと怖いことがあって……」
私が言いかけた時、田中先生の表情が曇った。「どうしたの?」
「その木の下で、私の願いを唱えた時、何かが動いた気がしたの……。それが、私の背後に立っているような感覚で……」
「それは、まさか……」
田中先生の声が少し震えている。
「実は、その木には古い伝説があってね。昔、ここで一人の女の子が、願い事をして……叶わなかった結果、二度と戻れなくなったって……」
私の心臓がドキリとした。その時、田中先生の目がどこか遠くを見つめているのを感じた。
「その子の名前は、桜井美咲。彼女はこの学校に通っていたんだ。彼女の願い事は叶わなかった……」
「どうしてそんな話を……?」
「私が彼女の一学年上だったから、彼女がどうなったか知っているの。彼女は、願い事を唱えた後、姿を消したんだ。」
私は背筋が冷たくなった。忘れられた木の下には、今でも彼女の影が残っているのだろうか?
「私、もうその木の下には行けない……」
田中先生は私の心を読んだかのように、静かに頷いた。彼女もまた、その影に怯えているのだと感じた。
〈了〉
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