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クレーマー
中編

クレーマー

匿名 2015年11月2日
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10年程前、私が内装工事の仕事をしていた時の話です。 私のいた会社は社長含めて従業員4名の小さな会社で、某大手ハウスメーカーの内装の下請けをしていました。毎日4人で分担して現場をハシゴし工事をこなしていくのですが、一件だけ社長しか対応しない家がありました。 その家は40代くらいの夫婦2人暮らしで、分譲地2件分で建てられた豪邸なのですが、奥様が有名なクレーマーでした。入居して3年も経つのに月に1度は必ずクレームで呼び出され、ハウスメーカー側も手を焼いていました。ご主人は昼間仕事をされていて、腰の低いすごくいい方なのですが、奥様がすこし精神に異常があり、ヒステリックになる事が度々あったため、ご主人が後からハウスメーカーに電話で謝ることもあったそうです。 ある時、その奥様から社長に「カーテンを付けたい窓があるから来てくれ」と電話がありました。クレームではないため少しホッとしながらも、「あの家にカーテン付けてない窓なんてあったかなぁ」と不思議そうにしていました。そして、単なる採寸作業のため、私も補助で同行する事になりました。 家に着くと奥様一人が出てこられ、一階のとある部屋のドアの前に案内されました。その部屋は、社長自身も今まで10回以上来ていながら一度も入った事のない部屋で、(そういえば表から見るといつも雨戸が閉まってる部屋があったな)と思ったそうです。 社長と私はドアの前に立ちました。そして奥様がドアをスッとあけた瞬間、強烈な線香の香りが鼻をつきました。そこは8畳程のフローリングで、真ん中におそらく数百万はしそうな立派な仏壇がありました。そして仏壇の中には小学校低学年くらいの野球帽を被ってニッコリ笑う男の子の写真が飾ってあったのです。 写真を見た瞬間、私はこの家の事情が全てわかったような気がしました。社長も全く知らなかったようで、固まっていました。普段は無表情な奥様が、あの部屋の中ではすごくニコニコしていました。 現場の採寸と打ち合わせが終わり、車の中で社長と奥様の話をしました。おそらく奥様は幼い息子さんを亡くされ、それで精神的にまいってしまったのだ。だから家の細かい所が気になり、ヒステリックになってしまうんだ。社長は「奥様からどんなクレームが来ても、できる限りのことをしてあげたい」と言っていました。 数日後、社長がハウスメーカーの営業担当者にその話をしました。すると、営業担当者から思いもよらぬ事を告げられました。 その家の旦那さんが言うには、夫婦に子供がいたことはないそうです。ある日、奥様が見ず知らずの男の子の写真を拾ってきて、額縁に入れて飾り出したそうです。 旦那さんの注意も聞かずにお供え物を置いたり線香を焚いたりし始め、写真に向かって話かけはじめたそうです。そして、ある晩旦那さんが帰ってくるとあの大きな仏壇が置いてあり、奥様が嬉しそうに写真に話しかけていたそうです。 撤去しようとすると奥様がヒステリーを起こして手がつけられないため、絶対に他人をその部屋に入れない事を条件に、そのままにしているそうです。 私は奥様が怖くて、あの家が怖くて、もう二度と行くことはありませんでした。

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