
長編
化かす
匿名 2024年10月31日
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これは私が70年間生きてきた中で、一番記憶に色濃く残る不思議な体験です。
長文な上、怖くありませんし解決した話でもありませんので、それでもお付き合いくださる方のみお読みください。
小学生の時、同級生に淳平くん(仮名)という男の子がいました。
淳平くんはとても活発で、スポーツも勉強もできる人気者でした。
悪戯も好きな子でしたので、私は髪を引っ張られたり揶揄われることも多々あり、少し苦手でした。
ある日夜遅くに、両親から「淳平くんのご家族から、息子が帰ってこないので、もし行方を知っていたら教えて欲しい。見かけたら連絡が欲しい」と知らせがあった、何か知っているか?と聞かれました。
その日は下校時に淳平くんを見かけましたが、同級生の男の子たちと何やらとても騒がしく遊んでいたので、私は巻き込まれないようにそそくさと横を通り過ぎ帰宅しました。
その旨は両親に伝え、何か分かったら教えるねと就寝しました。
近所の方や警察も動いたようでしたが、その連絡があった日は淳平くんは帰って来ず、事故か事件に巻き込まれたのでは?と両親はとても心配していました。
翌日、学校に淳平くんの姿はありませんでした。
朝の集会で先生方が、「不審者がいるかもしれないから気を付けるように、また、そういった人を見かけたら周りの大人たちに知らせるように」と話し、なんとなく同級生と淳平くんがまだ戻ってきていないんだろうねと話し合いました。
数日後の下校途中、近所のおばあさんに声をかけられました。
「淳平ちゃん帰ってきたんだねぇ。良かったねぇ」
学校や親からは特に淳平くんのことは聞いていなかったので、学校には来ていないけど帰ってきたのかな?と思い、帰ってきたんだね!良かったね!と言いました。
おばあさんは、「今日の昼間ね、淳平くんが桜の木のてっぺんで寝てたんだよ。あんな折れそうな木の枝の上にいたら危ないから声かけたんだけど、全然こっち見なくて、よっぽど眠かったんだろうねぇ。ほら、そこの桜の木だよ」と私の後ろを指差しました。
振り返ると、いつも登下校で見る桜の木がありました。
しかし、その木の上の枝は本当に細く、子供といえど乗っかれば簡単に折れて落ちてしまいそうなものでした。
見間違いじゃないの?と聞きましたが、おばあさんはいがぐり頭の子供はこの辺じゃ淳平くんだけだし、名前を呼んだら返事をしたと言うのです。
私は、変なの〜と笑いながらしばらくおばあさんと談笑し帰りました。
家には母がいたので、淳平くん帰ってきたんだねと言いました。
母は、そうなの?まだ帰ってきてないって聞いたけど学校きたの?と言ったので、おばあさんから聞いた話をしました。
訝しげな顔をした母が、ちょっと淳平くんの家に連絡してみる、と言って部屋を出ていきました。
数分後戻ってきた母は、やっぱりまだ帰ってきてないって淳平くんのお母さん言ってたよ?と困惑していました。
その後、淳平くんのお母さんと母は直接おばあさんに話を聞きに行き、あれこれ話したそうですが、やはり桜の木の上で寝ていたということしか分からなかったそうです。
その日から、淳平くんのおかしな目撃談がたくさん出てきました。
ある人は、淳平くんが道路の真ん中で立っていたから危ないよと声をかけたのですが、ニコニコ笑うだけで動かないので、避難させようと近付いたらぽーんと藪の中へ飛んで逃げてしまった、と言い、またある人は庭の池の水を淳平くんが犬のような格好で飲んでいたから慌てて止めようとしたら、もの凄い速さで走っていってしまった、など色々。
しかし淳平くんは家には姿を見せず、ご両親はとても困惑していました。
実際、毎日淳平くんを探すご両親を見ていたので、一体何が起きているのだろうと少し不気味でした。
それからまた数日後、学校がお休みの日。
お遣いを頼まれた私は、麦畑が真横にある道を歩いていました。
なんとなく麦畑の方を見ると、10メートルほど先に人が立っているのが見えました。
見覚えのあるいがぐり頭。
私は思わず、淳平くん!と叫びました。
その瞬間、淳平くんの腰あたりから黄金色の大きな尻尾のようなものが麦と一緒にふわーっと揺れました。
えっ?と思い、私が呆然としてると、その存在はゆっくりこちらを振り向き、裂けんばかりの口でニヤリと笑ったのです。
淳平くんの姿をしてるけど、これは淳平くんじゃない、違う人だ、… いや、これは人間…?と不思議な感覚と共に、頭の中は大混乱でした。
固まって動けない私を確認したかのように、淳平くんの姿をしたそれは、ギャギャギャ!と動物のような鳴き声を上げ、広い麦畑の中へ消えていきました。
はっと我に返り、私はお遣いのことなど忘れて一目散に家に帰りました。
母に、淳平くんの姿をした何かが麦畑にいた!変な鳴き声を上げてどこかへ行ってしまった!と無我夢中で訴えました。
お遣いが面倒だからってそんな言い訳しなくていいのに、と少し怒ったように言われましたが、私は必死に先ほどのことを伝えました。
支離滅裂な話なので最初は信じて貰えませんでしたが、淳平くんのおかしな目撃談が相次いでいたので、母は少し黙って何かを考えている様子でした。
そしてこんなことを教えてくれました。
「淳平くんが居なくなった日、淳平くんと同級生の男の子たちは下校途中に親子連れの狐を見つけたみたいで、親狐が威嚇をしてきたからみんなで石を投げたそう。
狐たちは逃げていったが、淳平くんがしつこく追いかけて石を投げ続けた。
その石の一つが子狐にあたり、親狐はそれを見てひどく淳平くんを威嚇し、淳平くんはそれさえも面白がって今度は落ちていた棒を親狐に投げつけた。
棒は狐にはあたらなかったが、狐たちは林の奥に逃げていった」
あの日淳平くんたちが騒いでいたのは、狐を見つけて石を投げていたからなんだと納得しました。
昔から狐や狸は人を化かすとは聞きますが、かといって現実味のない話に私はまた混乱しました。
母は続けてこんなことも教えてくれました。
「昔は親から狐や狸、狢(むじな)は人を化かすから気をつけろと言われて育った。
狐と狸は自分たちが作った道に誘い惑わせる、狢は人に道を作らせて悪さをし惑わせる、と教わった。
わたしが小さい頃、近所の女の子がいなくなったことがあった。
地域全体で探し回っても見つからず、いよいよ付近の山中を探すことになった。
結果的に山の中で発見されたが、人が踏み入らないような場所で泥だらけで亡くなっていた。
その子が通ったように草は倒れ泥で汚れていたが、小さな子供だったから背の高い太い草はうな垂れるようにしなっていただけだった。
近くには大騒ぎしている人間をじっと見つめる狢がいて、それを見つけた女の子の叔父さんが大声を出して追い払おうとした。
するとその瞬間、狢は大きくグゥーと鳴き、後ろ足だけで立ち上がり何とも形容し難い巨大な姿に変化したという。
そして怒号のような鳴き声を上げ、その場にいた人間たちは慌てて女の子を抱き上げて逃げ帰ったそう
」
幼い頃の記憶だから所々脚色されてるかもしれないけど、よくこの話を親と祖母が話していたと言っていました。
そしてその捜索には母の祖父も携わったそうですが、一度もその話をしようとしなかったとのことでした。
女の子はどうして死んじゃったの?と聞くと、泥を口いっぱいに含んで窒息していた、お腹には沢山の泥が入っていて、お腹が大きく膨らんでいたみたいだよ、と教えてくれました。
自分で確認したわけじゃないから真偽は分からないけど、大人たちが真剣な顔で話していたから信じたし怖かった、あなたも十分気を付けなさい、と話す母の顔も真剣そのものでした。
その話を聞いてから数日後、淳平くんはひょっこり家に帰ってきました。
身体は痩せ細り泥だらけで、ぼーっとした様子だったそうです。
何を聞いても、「あぁ… うん… ふふふ」とうすら笑いを浮かべるだけで、いなくなった間どこにいたのか、何をしていたのか、何も覚えていない様子だったそうです。
それから淳平くんは学校にくることはなく、たまに道端や河原で見かけましたが、虚な目で遠くを見ているような、以前の淳平くんとは程遠い人物になっていました。
見かけた時は必ず声をかけましたが、「うん… へへへ」と笑うだけで、会話らしい会話を交わすことはできませんでした。
そのうち淳平くん家族は引っ越していき、どこに行ったのか、淳平くんは元に戻れたのか、誰も知りません。
某アニメ映画で、狸たちが人間たちに反旗を翻すという有名な作品がありますが、あり得ない話ではないかも、と少し本気で思ったのは、私だけじゃない気がします。
以上が私の体験談です。
長々と読んでくださった方、ありがとうございました。
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