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長編

楽しく安全な登山を

しもやん 3日前
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怖くない 413
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鈴鹿のバリエーションルートである。バリエーションルートには登山地図に記載のない上級者用のルートという意味合いがあり、当然道標のたぐいはほとんど見られない。あったとしても有志による手作りの粗末なものが心もとない間隔で設置してある程度で、それもあればラッキーというくらいの頻度である。通常ルートなら密に巻いてあるペナントも数十メートル間隔でしか見られず、支尾根に迷い込めばとり返しのつかない道迷いに発展する。  わたしは何度も地図を見て地形を頭に叩き込み、ルートが通してあると思われる尾根芯からはずれないよう踏み跡を律儀にトレースして歩いた。小規模なアップダウンをくり返しながら、徐々に標高を下げていく。  難所とされるクラシジャンダルムを14:30ごろ危なげなくクリアし、ワサビ峠と思われる顕著なコルにどんぴしゃりで降りてきたときには、安堵のあまりその場にくずおれそうになった。ネットの記事で予習した限りでは、そのまま北上すればお金明神へ、東進すればオゾ谷を経由して神崎川へ降りられるはずだ。そして上記の道筋を概説した手作りの道標があるとも。  わたしは慎重に何度も予習していたのでここがワサビ峠であるとほぼ確信していたけれども、それでも道標で確認できるに越したことはない。かろうじて電波が入ったので再度記事を閲覧する。記録によれば峠にある大木に針金で道標が括りつけてあるはずだ。写真に写っている大木はすぐに見つかった。けれども道標がない。なにかが長いあいだ設置してあったような跡が刻まれていたので、目の前の木でまちがいない。記事は一年ほど前のものだったが、そのあいだに風雨にさらされてはずれてしまったのだろうか?  あたりをうろついて探してみると、道標は不可解な場所で見つかった。峠からオゾ谷方面へ下る薄い踏み跡が伸びているのだが、そこから数メートルもずれた登山道外の木に括りつけられていたのである。しかも峠から見て裏側に。何者かの悪意を感じずにはいられなかった。こんな場所に移動させられていては道ゆく登山者の目に止まる可能性はまずありそうもない。  わたしは慎重に斜面を下り、問題の道標が記事のそれと一致しているか確かめてみた。わたしは思わず一歩後ずさった。道標は赤いインクですっかり塗りつぶされていた。よく見ると下のほうにわずかなスペースが残されており、神経質そうな角ばった書体で文字が書いてある。 〈楽しく安全な登山を〉  赤のインクは

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  • 人の悪意ほど恐ろしいものはありませんね。この老人のしていることは、「犯罪」です。この話を読んでからは、山怖い話の中でも、秀逸な実話だと思いました。
    慈母観音
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