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長編

楽しく安全な登山を

しもやん 2日前
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:00ジャスト。それから紅葉の美しい神崎川流域へまずは降りていく。この時点で登山者は激減し、目に入るのは単独の中年男性が一人いる程度だった。  神崎川を南下して小峠出合には12:00前に着き、V字に切れ込んだ沢道へシフト。小峠からはクラシ南尾根を経由してイブネ台地へ至った。気持ちのよい秋晴れの下、苔むす広大なイブネをたっぷり満喫し、13:00すぐにやっと昼食。イブネは〈鈴鹿の秘境〉と呼ばれるだけあってかなりの奥地にあるのだが、それでも雄大な景色を求めてやってくる登山者がちらほらいた。  山では見知らぬ他人でもあいさつするのが常識である。気が向けばそのまま山談義に花を咲かせることもしばしばある。ましてイブネにまでくるような登山者はマニアであることが多く、自然会話も弾む。わたしは六十代くらいのベテラン山屋としばし、歓談を楽しんだ。  なんでも神崎川沿いのお金出合から深部に分け入り、お金峠→作ノ峰→高岩→ワサビ峠→クラシジャンダルム→イブネというマニアックなルートできた由。彼はストーブで沸かしたコーヒー片手に長々と嘆息してみせた。 「近ごろはこのあたりもにぎやかになってきちゃったね、どうも」  わたしは水を向けてみた。「むかしはちがったんですか」 「まだ鈴鹿スカイラインが通されてなかったころなんか、イブネにいくのはごく少数のマニアだけだったもんさ。御在所あたりのふもとから杉峠あたりで一泊、イブネを堪能して深部の稜線を歩き通してお金明神に詣でるだろ、沢に降りて神崎川流域でまた一泊。三日めでようやく下界に戻ってこられる。体力と根気のいる行程だった。それがいまじゃこのありさまだ」  老人は身振りで思い思いに歓談する人びとを指し示した。 「こいつらはどうせ武平峠あたりからずるをやらかして登ってきた連中だろ。みんな楽をすることしか考えてない。それもこれもお節介なやつが勝手に設置した道標がいかん。あんなのがあるから気軽に誰でも深部にこられるようになっちまったんだ」  老人はひとしきり不平を述べたあと、見知らぬ他人に愚痴をこぼしたことを詫び、道具を片づけて下山していった。帰りはコクイ谷方面から降りるのだという。  わたしはちょうど彼が辿ってきたルートを使って北上し、お金出合へ降り、羽鳥峰峠を経由して朝明渓谷へ戻る計画だった。昼食のごみを片づけ、重いザックを背負ってクラシ北尾根へ分け入る。14:00ジャスト出発。  クラシ北尾根は

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  • 人の悪意ほど恐ろしいものはありませんね。この老人のしていることは、「犯罪」です。この話を読んでからは、山怖い話の中でも、秀逸な実話だと思いました。
    慈母観音
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