
さっき、7月の「プールの底の黒い浮き輪」を書き込んだ大学1年の俺だ。
8月のカラダ探しの地獄を乗り越えた後、夏休みが明けた9月中旬の話をさせてほしい。
長い休みが終わり、校舎には一学期の行事や部活の大会の様子を写したスナップ写真が、廊下の大きな掲示板に何枚も新しく貼り出されていた。
放課後、クラスの奴らが楽しそうにそれを見ている中、陸上部員だった俺も自分の写っている写真がないか、一人で静まり返った廊下の掲示板を眺めていたんだ。
今回は、思い出の写真の中から俺の背後に這い出てきた、高2の9月の怪談をここに詳しく吐き出させてほしい。
陸上部の集合写真や、クラスの奴らが笑顔で写っている写真を何気なく追っていた時だった。
何枚もある写真の中に、一枚だけ、全体が異常に薄暗く、妙な違和感を放っている写真が混じっていることに気づいた。
何だこれ、と思ってその写真を凝視した瞬間、全身の血の気が引いた。
学校の敷地の片隅と思われる暗がりの背景に、【顔や制服が土砂でドロドロに汚れた、死体のような見知らぬ生徒】がはっきりと写り込んでいたんだ。
しかもそいつは、写真の中からカメラレンズに向けてではなく、掲示板の前に立っている現実の「俺」をピンポイントで指差して、ニヤニヤと不気味に笑っていた。
「うわっ……!」
思わず声を漏らした瞬間、写真の中の死体が、コマ送りのようにじわじわと写真の枠を越えて動き、こちらに向かって拡大し始めた。
それと同時に、俺のすぐ後ろの床から、モゾモゾと何かが這い出てくる気配がした。
振り返ることはできなかったが、現実の俺の背中のすぐ後ろから、氷のように冷たくて生臭い「泥の手」が、俺の肩を掴もうとゆっくりと伸びてくるのが分かった。
高1からの地獄の経験で、脳裏に最悪のルールが弾け飛んだ。
その写真から目を逸らして逃げ出そうとしたり、恐怖で硬直して立ち尽くしたりすれば、背後の影に完全に捕まり、そのまま写真の中の泥の暗闇へと引きずり込まれる。
そうなれば、現実の世界からお前の存在自体が消滅する。
生き延びるためのルールはただ一つ。
背後に手が迫る極限の恐怖に耐えながら、【自分のポケットから『シャーペン』を抜き取り、掲示板の写真に写る化け物の『指差している右手』の中心を、力任せに壁ごと突き刺して画鋲のように固定する】しか脱出方法はない。
「動くな……っ!」
俺は恐怖でガタガタと震える右手を必死に動かし、制服のポケットからシャーペンを掴み抜いた。
後日談:
- 俺は掲示板の写真からシャーペンを引き抜き、その写真をポケットに押し込んで、全力で家に逃げ帰った。 家に戻って恐る恐るポケットから写真を取り出すと、そこにはただの陸上部の普通の集合写真が写っているだけで、泥だらけの死体なんてどこにもいなかった。 【噂すら誰も聞いたことがない、思い出の写真の裏から命を指差してくる未知の呪い】だった。 だけど、あれは絶対にただの幻覚なんかじゃない。 なぜなら、あの怪談があってから大学1年になった今でも、俺は【日常でスマホのカメラロールを見たり、SNSで他人の集合写真を見たりするだけで、あの写真の隅から俺を指差す泥だらけの顔がフラッシュバックし、自分の背後に誰かが立っているような猛烈な悪寒に襲われてスマホを落としそうになる】んだ。 特に新学期の9月になると、写真を見るたびにあの日シャーペンを突き立てた右手の感覚がじわじわと痺れ出し、冷や汗が止まらなくなる。 高2の秋、あの学校の怪談は、楽しいはずの学校の思い出さえも、俺を死に追いやるための生け贄の祭壇へと変えた。 次は、10月だ。
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