
短編
ある10月の昼休み
あ 2日前
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数年前の体験です。
はじめは、どこかでパトカーのサイレンが鳴っているのだと思いました。
当時私は会社から転勤を言い渡され、とある地方都市に移り住んだばかりでした。
そこは五大都市の一つに数えられる大きな街です。
五大都市と言えば聞こえは良いものの、私の職場は都会的な中心街からは少し離れた、オフィスビルや商店、住宅などが混在する雑多な地区にありました。
あれは残暑も和らいできた10月中頃だったかと思います。
昼休み、近くのコンビニに行くため、職場の裏の通りを歩いているときでした。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきました。
音の方向からして、次の狭い交差点の左手からやって来るようです。
その地区はお世辞にも治安も交通マナーも良いとは言えず、パトカーのサイレンはもはや日常の喧騒の一つでした。
「~~~ ~~~~」
なんとなく、音がいつもと違うような気がしました。
いつもより安定感に欠けると言うか、無機質な感じが薄い。
ともあれ、音の近さからちょうど鉢合わせそうだったので、私は交差点手前で歩みを止めて、パトカーを先に行かせることにしました。
「ああああああぁ! ああああああああぁ!!」
出てきたのは、朽ち果てた白いワゴン車でした。
ボディは錆びだらけ。バンバーなどは大きくひしゃげています。
フロントガラスは真っ白にヒビが入り車内は見えません。
自走しているのが不思議なくらいの状態ですが、時速20キロほどで私の目の前をゆっくり横切りました。
「ああああああああああああぁぁ!!」
サイレンだと思ったそれは、抑揚のない女性の叫び声でした。
声はそのワゴン車から発せられています。
私は恐怖でその場に棒立ちになっていましたが、そのワゴン車はそのままゆっくりと走り去り、やがて見えなくなりました。
あれが本当に心霊現象の類いだったのかは定かではありません。
ただあのとき、周囲には何人か通行人がいましたが、そのワゴン車や叫び声に反応している人はいなかったように思えます。
その後、私は次の転勤まで3年ほどその地で勤務しましたが、二度とそのワゴン車を見ることはありませんでした。
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