ました。 その女と見つめ合う状態が2、3分続きましたがキーちゃんに手を舐められることで不思議と安心感がありました。 そしてひとしきり手を舐めた後、キーちゃんはその女に向かって吠え始めました。 女は何やら悔しそうな顔をして消えていきました。 Ｒはまだ今までの出来事が把握しきれておらず部屋の電気をつけました。 するとキーちゃんはどこにもいませんでした。 今までのは夢だったのだと思い寝ることにしました。 次の日の朝早く、電話の音で目が覚め、その電話に出ると、その内容は信じられないものでした。 キーちゃんが交通事故で死んでしまったというのです。 いきなりＲの実家を飛び出し、Ｒのマンションのある方向に向かっている途中で車に轢かれてしまったらしいのです。 それはＲがあの体験をした時間帯でした。 Ｒは今までに無いくらい大泣きしたそうです。 恩返しのためにそこまでしなくても良かったのに、と。 ひとしきり泣いた後、Ｒはあることを思い出しました。 それはＲがキーちゃんを助けたときのことです。 Ｒが横断歩道を歩いていると車が走ってきたのですが、信号が青だったこともあり、車を無視しながら歩いていました。 そのときです。 犬が凄い形相でＲを追いかけてきたのです。 Ｒはその犬が大きかったこともあり少し怖くて小走りでその横断歩道の最後の2、3メートルを渡りきったのですが、その犬は車に跳ねられてしまったのです。 Ｒはその犬を助けようと必死だった、という記憶だけがはっきりと残っていたためそのときまで忘れていましたが、実際はキーちゃんがＲを助けていたのです。 だからなぜかＲはその犬に何度も謝っていた記憶があったんだと思いました。 キーちゃんは恩返しのためにＲを守ったのではなく、飼われる前からＲのことを守っていたのです。 キーちゃんは今でもＲを守ってくれているのか、そのマンションにはもう何も起こっていないそうです。