
長編
カズ兄ちゃんとの悲しいお別れ
けいすけ 2018年3月19日
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3月19日…この日は私にとって忘れることが出来ない日だ。
私が産まれて初めて大切な人の死を予感してしまった忘れることが出来ない日であるから。
このお話は私が8歳の頃のお話です。
「ばあちゃん、カズ兄ちゃんと遊んでくるね‼」
「おじちゃんやお兄ちゃんの言うこと聞くんだよ。」
「ハーイ!」
学校から帰ると私と兄と二人の弟は宿題を猛スピードで終わらせるとおやつ片手にダッシュで隣の家の親戚宅に遊びに訪ねていた。
祖母の従弟にあたるおじさん一家が住んでいてそこの家の若いお兄さんが私達と遊んでくれた。
「カズ兄ちゃん、遊ぼう‼」
「一緒におやつ食べながら遊ぼう‼」
…カズ兄ちゃんの姿を見付けると私達はかけより口々にはしゃぐ。
「おっ来たな‼よし、今日はサッカーだ‼」
…カズ兄ちゃんは優しくて格好良くて、モテモテだったし友達も多かった。
カズ兄ちゃんの友人であるお兄さんとお姉さん達も私達兄妹を可愛がってくれた。
おやつを一緒に食べたり遊んでくれた。
楽しい時間も母の帰宅と共に終了。
仲良く元気にはしゃぐ私達をおじさんと祖父母はたまに様子を見に来ては微笑んで見ていた。
私が自転車を乗れるようになったのもカズ兄ちゃんのお陰。
今思えば子供の頃のこの時間が幸せだった。
焼き芋をしたりバーベキューをしたり遊んだり花火をしたり…楽しかった。
私達兄妹はカズ兄ちゃんが大好きだった。
しかし…悲しい別れはやって来た。
3月18日…あの日は何時ものように遊んで何時ものように母が帰宅して家に帰る何時もと変わらない光景。
「さっ、お家に入ろうか。カズ兄ちゃんもご飯だよ。栞は明日は病院にお出かけだからちゃんとご飯食べて早く寝ようね?」
母に促された。
「そうだね。ご飯ちゃんと食べて強くならないと悪い虫に負けちゃうよ?」
…何時もと同じカズ兄ちゃんの優しい笑顔。
だけど…何故か帰りたくないと言う気持ちと今帰ったらカズ兄ちゃんと二度と会えなくなるのではないかと言う気持ちとカズ兄ちゃんは二度と会えない世界に行ってしまうのではないかな…と言う漠然とした不安感を感じていた。
その時のカズ兄ちゃんは夕日に照らされていたのか何だかわからないが、カズ兄ちゃんの顔が真っ赤に見えた。
「カズ兄ちゃん、明日も一緒に遊んでくれるよね?どこも行かないよね?」
そう不安げに訪ねる私にカズ兄ちゃんは優しい笑顔で微笑んでくれた。
「大丈夫だよ。明日栞が病院から帰ってきたらまた遊ぼう。約束だからね。絶対だからね。ほら、もうお家入ってご飯食べて寝ないと明日病院に行って疲れてお兄ちゃんと遊べなくなるよ?」
「そうだよ…栞。嫌なら帰ろうね。」
「ハーイ!お兄ちゃんまた明日ね。」
寝るまで私は不安な気持ちが消えなかった。
そして、3月19日の朝が来た。
8時前のバスで私と母は出掛けた。
昨日の私の様子を見て心配してくれた祖父母と父がお小遣いを沢山くれた。
「良かったね。」
「お兄ちゃんやお姉ちゃん達にお土産一杯買えるね。でも、お母さん。また出掛けた時のために遣いたいから2000円だけ預かってくれる?」
「栞は偉いね。じゃあ、お母さんがちゃんと預かるからね。」
と、玄関先でそんな会話をしながらルンルン気分で出掛けた。
家を出て、隣の家の前を通るとカズ兄ちゃんがいた。
「あっ、カズ兄ちゃんおはよう‼お父さんとじいちゃんとばあちゃんがお小遣い一杯くれたよ‼帰ってきたらお菓子食べようね‼」
元気に手を振りながら私はカズ兄ちゃんに言った。
でも、カズ兄ちゃんは悲しい顔で微笑みながら頷くだけだった。
その時、普段は優しい母が厳しい口調で私を促しバス停へ向かった。
「お母さん、お兄ちゃん具合悪いのかな?」
「お仕事だったみたいだから忙しいんだよ。」
その時の私は納得はしたが、今思うと母が何故か険しい顔をしていた。
そして、何処か悲しい顔をしていた。
そんなこんなで病院へ着いて何時もの診察と検査が始まる。
この日は脳波の検査。
脳波の検査をした時は眠る状態で受けるのだが、夢を見たのはこの時が一回だけ。
その一回だけ見た夢は悲しい夢だった。
私は暗い空間にいて、カズ兄ちゃんが私に背中を向けて光りがさす道の方に歩いていく夢だった。
「カズ兄ちゃん、行かないで‼」
私は泣きながら叫ぶとカズ兄ちゃんは振り返り優しい笑顔で微笑んで、バイバイと手を振りながら光りの中に消えていく。
そんな夢だった。
目が覚めたら私は泣いていた。
担当医の先生は優しく笑いながら、涙をふいてくれた。
「怖い夢見たかな?大丈夫だよ。可愛い顔が台無しだよ。お母さん心配しちゃうよ。これ食べてね。」
先生はこっそりと飴をくれた。
私は嬉しくなり、気持ちが落ち着いたので待合室の母の元へ。
会計を終えるために順番を待っていたら、母の携帯がなる。
…この時、私と母は頭を傾げた。
だって…毎回病院に入るときは携帯の電源は落としていた。
「栞、病院に入るときは…?」
「携帯の電源はオフ!」
このやり取りが恒例だったので。
消し忘れではない。
祖母に折り返し公衆電話から連絡をする母。
「もしもし…お義母さんどうかなさいましたか?…え‼…はい。分かったわ。なるべく早く帰ります。」
…その母のやり取りで何故か嫌な予感がした。
その知らせは悲しい知らせだった。
「栞、落ち着いて聞いてね。悲しいお話だけど、カズ兄ちゃんが亡くなったの。今朝だって…。」
…私の目から涙が出てきた。
胸が苦しくて引きちぎられて…切り裂かれるような痛み。
母は優しく抱き締めてくれた。
母も泣いていた。
「そっか、カズ兄ちゃんは栞達の事が大好きだったんだよ。だから、お別れに来てくれたんだね。」
「悲しいけど、皆何時かはお空に逝くんだよ。でもね、姿は見えないけど栞達の近くにお兄ちゃんはいるからね。」
「あんまり泣いてばかりいると心配するよ。だから、お線香をあげに行ってお兄ちゃんにバイバイしようね。」
…祖父母と父に夢の話をしたらそう言われた。
棺の中に眠るカズ兄ちゃんは綺麗な顔をしていた。
だけど…今思えば、カズ兄ちゃんの首筋には紐状の跡があった。
「カズ兄ちゃんは二度と会えない世界に逝ってしまった。もう、遊べないんだ。」
私はその場で泣いてしまった。
また、胸が張り裂ける苦しい痛みを感じた。
そんな私を優しい撫でてくれる沢山の大人の人達の優しい手の温もり。
カズ兄ちゃんが荼毘にふされる日の朝…遠目で私達は出棺の瞬間を見ていた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん何処に連れてかれるの?」
「栞、人間は亡くなると火葬場に行って神様の所に逝くんだよ。」
「じゃあ、カズ兄ちゃんともう遊べないの?」
「…。」
姉は…涙を浮かべていた。
その瞬間にカズ兄ちゃんを乗せた霊柩車が三回音を出す。
その瞬間、私達兄妹は泣いてしまった。
「カズ兄ちゃんの馬鹿…。私の可愛い弟や妹を泣かせるような死に方するな‼」
姉は小さく呟いた。
数年が経ち私が中学生の春に姉にこの時の不思議な体験の話をした。
姉が二階の部屋にいると、窓からカズ兄ちゃんが話しかけてきた。
「ごめんね。俺、お前らを泣かすことをしてしまった。ちびどもに伝えてくれ、お前ら皆大好きだったよって。」
「いやいや…泣かすことってさ、兄ちゃん。ここ二階だから危な…ー‼」
姉は気付いてしまった。
二階の窓の外は瓦屋根で人が立つ場所が無いことに。
その瞬間にはカズ兄ちゃんは居なかった。
「そっか、カズ兄ちゃんは栞の所に会いに行ったんだね。酷いよね。栞も嫌なことばかりで辛いだろうけど、自分で命を捨てる真似はするな‼お姉ちゃんより先に死ぬな‼これは約束だよ。」
…姉も泣いていた。
私も涙が出てきた。
実は、カズ兄ちゃんは色々悩みがあって自ら命を絶ってしまった。
でも、大人になって色々な世界をみたり嫌な目にあって死にたくなったりもしたけど…出来なかった。
「どんなに辛くても…自殺だけはするな。兄ちゃんは笑った顔の栞が大好きなんだよ。お前だけは…俺と同じ事はするな‼今は辛くても後に幸せになれるから。優しさと誰かを思う気持ちは忘れるな。」
…人生で一番辛いときにカズ兄ちゃんは背中を押してくれた。
「多分閻魔様とご先祖様達にこっぴどく説教食らったわね。かなり後悔して反省したんだろうね。だからこそ…栞に同じ事をして欲しくなかったのね。」
…母は笑いながら言った。
因みに、最近になり聞いたことだが…。
母には朝擦れ違ったカズ兄ちゃんは既にこの世には居ないと気が付いたらしく、顔色が生気が無いことに気が付いた。
「仕事柄ね…わかるんだよ。」
と、悲しく母は笑う。
不思議な事に、赤ちゃんの頃の私を抱っこしてくれたり可愛がってくれた親戚の方々が亡くなると必ずお知らせが来る。
亡くなる前に予知的なモノでわかる場合もあるけど…結局は助けることは出来ない。
カズ兄ちゃんが亡くなった時だってそう。
「大好きだった人達が亡くなるのを黙ってみているのは確かにきついし辛い。どうすることも出来ない。でもね、おじちゃんやおばちゃんは栞の事が大好きだったんだよ。おじちゃんおばちゃんってなついて、お茶やお菓子を出してくれる所が可愛くて嬉しくて仕方なかったのかもね。親戚で集まると、お父さんとお母さんとばあちゃんは栞のそこを褒められるんだよ。栞は霊感がある子だから苦しいし辛いし悲しい思いもするけど、この子なら色々大事なことに気がついて後から産まれてくる孫や子供に沢山の大事なことを教えてくれる子だなと思ったから授けたんじゃないかな。」
…父の言葉に私は救われた。
私が産まれ持った霊感は命の重さを教えてくれる為に命の大切さを学ぶためにあるんだと気が付いた。
しかし…毎年、この時期になると大好きだったカズ兄ちゃんを思い出してやっぱり悲しくなる。
何で…小さい手なんだろう。
何で私の手は小さいのだろうと。
でも、とりあえずは…明日のお墓参りにカズ兄ちゃんのお墓にお礼と大好きだよと伝えよう。
一応はカズ兄ちゃんはニコニコ笑いながら夢に出てきてくれるから。
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