
冬の寒空の下、郊外のガソリンスタンドで深夜バイトを始めたのは、専門学校に通う自分にとっての一大決心だった。実家からは少し離れた場所にあったが、一人暮らしを夢見ていたからだ。
バイトの初日、店長から言われたのは、特に深夜の23時以降は電話に出ない方がいいということ。嫌がらせの電話が多く、暗い噂が立っているからだと。
最初はその言葉を軽く受け流していたが、バイトを始めて数日後、実際に電話がかかってきた。いつも同じ番号から、静かな夜に一度だけ。店は閑散としていたので、思わず受話器を取った。
「もしもし?」と呼びかけるも、応答はなし。ただ静寂が続いた。少し不気味に感じながらも、気になって再度かけ直すことにした。しかし、そこにいたのはただの無言の応答だった。気持ち悪さが増していく中、友人たちにこの様子を見せようと誘った。
友人たちが集ったその夜、再び電話が鳴った。スピーカーフォンに切り替え、皆で耳を澄ませた。「もしもし?」と声をかけるも、また無言だった。その瞬間、静寂を破るように声が聞こえてきた。
「許さない、許さない……」
聞き取れるのはその言葉ばかりで、次第に声が高まり、「殺してやる!」と悲鳴のように響き渡った。恐怖が一気に広がり、友人たちの顔は青ざめ、全員が息を飲んだ。思わず電話を切り、その場の空気は一変した。
その日以来、もう一度もそのガソリンスタンドには行かなかった。数日後、実家に帰ると、母が話を始めた。ガソリンスタンドの店長の噂が耳に入ってきた。彼の妻は、夫に裏切られ、子供を妊娠中に追い出されたらしい。店長は浮気相手と新たな生活を始めたが、妻は無事に子供を産んだという。
なぜか、無言の電話はいつも店内が静まり返ったときにかかってくる。誰かが見ているような、そんな不気味な感覚が忘れられない。彼女の恨みがどこかで渦巻いているのだろうか。何も知らないまま、ただ恐怖に怯え続ける日々が続いた。
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