
長編
深夜喫茶「二杯の珈琲」
まなみ 3日前
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さんがいない。
「ん?僕は一人だよ?」
「えっ?一人……?」
どういう事だ?二人で来ていたじゃないか。
「ああ、はは。すまないね。今日は亡くなった妻の四十九日でね。あれも珈琲が好きだったから、一杯多めに頼んだんだよ。はは、誤解させてしまったかな」
老人はそう言って軽快に笑って見せた。
亡くなった妻?四十九日?
まさか……
背中に僅かな寒気が走った。
そして、そこまで考え、俺はようやく理解した。
メロンちゃんはこの事を俺に伝えたかったのか。
そこに居るはずのないお婆さんの姿を、メロンちゃんも見てしまったから。
「さてと、」
老人はそう言って、どことなく寂しそうな顔でレジに向った。
そんな老人の顔を見て俺は、
「あの……!」
と、何だかいてもたってもいられず、気がつくと無意識に老人を呼び止めていた。
「はい?」
老人が短く返事を返す。
「また……来て下さい。コーヒーならたくさんありますから、お代わり用意して、お待ちしています」
自分でもなぜこんな事を言ったのかは分からない。けれど、なぜかそれ以外の言葉が、その時の俺には見つけられなかった。
「ふふ、ありがとう。本当にありがとう」
そう言って老人は深々と頭を下げた。釣られて俺も深く頭を下げ返す。
顔を上げると、そこにはもう老人の姿はなかった。
「えっ?あれ……」
間の抜けた声が店内に響く。
「な、何で、今の目の前にいた……えっ?ええっ?」
辺りを急いで見渡す。いない。さっきの老人が、まるで煙のように掻き消えた。
「すみません、言葉が足りて無かったです。付け加えるべきでしたね」
メロンちゃんが急に口を開いた。
「誰と……何を、話してたんですか……」
メロンちゃんの冷たく、抑揚の無い声が、俺の頭の中で残響となって響いていく。
「あそこに人なんて、初めからいませんでしたよ」
そう言うと、メロンちゃんは再びノートPCの画面に視線を落とした。
その後の事はよく覚えていない。酷く混乱していたのは確かだ。
あの後はろくに客もこなかった為、俺は嫌がる相方を表に立たせ、厨房で一人ふさぎ込んだまま、朝を向えた。
あの老夫婦の事はその日の朝、店長からの電話で、ようやく理解する
後日談:
- 深夜喫茶「見えない交渉」、「徘徊者」等他作品と合わせてお読み頂ければこれ幸いです。 ダラダラと怪談投稿させて頂いております。まあこういった話は好き嫌いあるでしょうが、生暖かい目でスルーしてやって下さいませ。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(9件)
- イイ話です、ハオ
- 良い話だなぁと思ったら最後の生暖かい目で笑ってしまった。(*´∇`)バターオイル
- 読みやすくて面白かった! 「本当にあった」と謳っているところだから、どうしてもそこを突くコメント多いけど、どれも事実かどうかは確認出来ないのだし。 この話は面白かったから、また読みたいです。するめ、
- 生暖かい目って(笑)ぴょん吉
- いい話だけど作りもの感が漂う!匿名
- とても良い話ですよ^^うんこりん
- コオリノさんの他のお話しも拝読。 匿名さん同様、私も実話ではなく小説かなと思います。レオ
- 面白い。シリーズものなんだね。というか実話ではないとかどこにも書いてないけどwろん
- 事実ではなく。作品(短編小説)なんですね。匿名