
長編
深夜喫茶「二杯の珈琲」
まなみ 3日前
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行って下さいねって。嬉しかったな~」
老人の言葉に、お婆さんがコクリと頷いた。
「店長が……」
いつもどこか抜けてて、のほほんとしている店長だが、なるほど、中々良いとこもあるんだなと、素直に思った。
「この席に座って、窓の外を眺めるのが好きだった。今背広を着た男の人はどこに行くんだろう、あの泣きそうな女の子は、彼氏と喧嘩でもしたのだろうか?なんて、通りすがる人達の物語を勝手に紡いでは、その思いに浸ったりしてね」
どこか物悲しい目で、老人は窓の外に目を這わせている。
この窓の外にも、俺の知らない風景が広がっていたのだろうか?
その時代に生きた人々、その時代にしかない景色。この老夫婦はきっと、数え切れないほどのそれらを、ここで、この席で見てきたのだろう。
俺は老夫婦に静かに頭だけ下げると、そっとその場を離れた。
あの二人の特別の時間を、何だか俺なんかが邪魔しちゃいけないような気がして。
補充を終わらせカウンターまで戻ると、俺はどこからともなく、視線を感じた。
厨房にいる相方ではないのは確か。だとすると残りは……
カウンター斜め向かい側、この店の一番死角にある席。そこは、深夜の常連客、通称メロンちゃん(メロンソーダばかりを頼む為、バイト仲間の間で勝手に名づけたあだ名)の特等席。
振り向くと、やはりだ。大きな眼鏡から覗き込む瞳が、俺の方をじっと見つめている。
相変わらずの無表情。せっかくの美人が台無しですよと、いつか本人に言ってやりたい。
「えと……何か?」
気になり声を掛けてみた。すると待っていましたと言わんばかりに、メロンちゃんは口を開く。
「何を、話してたんですか?」
「何をって?」
さっきの老夫婦の事だろうか?
「ああ、もしかして窓側のお客さんとの?」
俺がそう言うと、メロンちゃんは返事もせず俺を見ている。
なんなんだ一体。
「えと、あの二人、昔ここの常連客だったみたいで、」
そう言い掛けた時だった。
「いやあ、先ほどは邪魔してすまなかったね。年寄りの与太話につきあわせちゃって」
さっきの老人だった。どうやらお帰りのようだ。
俺は急いでレジに移動した。その際、老人の方にふと目をやった時だった。
あれ?
「お連れの方は?」
一緒にいたはずのお婆
後日談:
- 深夜喫茶「見えない交渉」、「徘徊者」等他作品と合わせてお読み頂ければこれ幸いです。 ダラダラと怪談投稿させて頂いております。まあこういった話は好き嫌いあるでしょうが、生暖かい目でスルーしてやって下さいませ。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(9件)
- イイ話です、ハオ
- 良い話だなぁと思ったら最後の生暖かい目で笑ってしまった。(*´∇`)バターオイル
- 読みやすくて面白かった! 「本当にあった」と謳っているところだから、どうしてもそこを突くコメント多いけど、どれも事実かどうかは確認出来ないのだし。 この話は面白かったから、また読みたいです。するめ、
- 生暖かい目って(笑)ぴょん吉
- いい話だけど作りもの感が漂う!匿名
- とても良い話ですよ^^うんこりん
- コオリノさんの他のお話しも拝読。 匿名さん同様、私も実話ではなく小説かなと思います。レオ
- 面白い。シリーズものなんだね。というか実話ではないとかどこにも書いてないけどwろん
- 事実ではなく。作品(短編小説)なんですね。匿名