
さっき、5月の「存在しない2年13組」を書き込んだ大学1年の俺だ。
今回は、連日の大雨で校舎全体が嫌な湿気に包まれていた、6月下旬の話をさせてほしい。
その日は部活のミーティングが長引き、外はすっかり日が暮れてどんよりとした灰色の闇が広がっていた。
俺は一人で荷物を持って、新校舎の3階にある寂しげな廊下を歩いていた。
天井のコンクリートの隙間から、ポツン、ポツンと雨漏りの水が床のバケツに落ちる音が、静かな廊下に虚しく響いていたんだ。
今回は、天井から迫る歪んだ重力と、俺の名前を呼ぶ水の怪異に遭遇した、高2の6月の怪談をここに詳しく吐き出させてほしい。
廊下を歩いていると、ふと、ある異変に気づいて足を止めた。
さっきまで規則正しく響いていた、ポツン、ポツンという雨漏りの音が、不自然に途絶えたんだ。バケツを見ても、次の水滴が落ちてこない。
不審に思って、俺は何気なく真上の天井を見上げた。
その瞬間、全身の血液が凝固した。
天井の隙間に、信じられないほど巨大な「水の塊」が、今にも落ちてきそうなほどパンパンに膨らんで静止していた。
しかもその水の表面が、ボコボコと蠢きながら、歪んだ人間の顔の形に変形していったんだ。
そいつは半開きの口を動かし、現実のクラスメイトたちの声を何重にも重ねた、おぞましい不協和音で語りかけてきた。
「――、こっちにおいでよ。ねえ、早く上がってきてよ」
俺の名前を呼ぶ声が響いた瞬間、凄まじい浮遊感が俺を襲った。
足元から頭上に向けて、重力が完全に逆転したかのような強烈な吸引力が発生し、俺の身体がフワリと地面から浮き上がりそうになった。
天井の水の顔が、俺を中に吸い込もうと大きく口を開けている。
高1からの経験で、脳裏に最悪のルールが弾け飛んだ。
あの水の顔と目を合わせ続けてはいけない。
そして、あの塊が床に破裂して落ちてくるまでの数十秒の間に、この異常な重力空間から脱出しなければ、そのまま天井の水の中へと吸い込まれ、窒息死した状態で天井のシミにされる。
生き延びるための脱出ルールは狂っていた。
【両手を耳に強く当てて自分の呼吸音だけを意識し、視線を足元に落としたまま、廊下の白線の上を右足だけでケンケンしながら、後ろ向きに3メートル下がらなければいけない】。
「くそっ……!!」
俺は必死に天井から目を逸らし、両手で耳を塞いだ。
脳内に響くクラスメイトたちの呼び声を、自分の荒い呼吸音だけで掻き消す。
後日談:
- 俺は全身にバケツの水を被ったようにずぶ濡れのまま、狂ったように走って家に逃げ帰った。 翌日、あの廊下を通ると、床には乾いた薄汚い水の跡があるだけで、天井には雨漏りの形跡すらなくなっていた。 【噂すら誰も聞いたことがない、重力を歪めて生徒を天井に引きずり込む未知の呪い】だった。 だけど、あれは絶対にただの雨漏りなんかじゃない。 なぜなら、あの怪談があってから大学1年になった今でも、俺は【雨の日に建物の軒下や天井から水滴が落ちてくる音が聞こえるだけで、あの天井の水の顔がフラッシュバックし、身体が上に浮き上がるような強烈な目眩に襲われて動けなくなる】んだ。 特に梅雨の6月になると、自分の名前を呼ぶあの不気味な重低音の幻聴が耳の奥でリフレインして、激しい吐き気に襲われる。 高2の梅雨、あの学校の怪談は、恵みの雨すらも俺を窒息させるための凶器へと変えた。 次は、7月だ。
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