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長編

残された廃屋の浴室

匿名 2024年9月27日
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これは某県M市の山間部で地元の中学生とその祖父に聞いた話だ。 その日、私はその近くの施設で開催されていた地域のイベントに行っていた。その帰り、時間があったから、17年程前に探訪した国道沿いの鉄道廃線跡を久しぶりに訪ねてみることにした。 17年前、私は廃線跡のガイドブックを製作していて、この地を訪れた。ここを通っていた鉄道は昭和後期に廃線となり、跡地は民間に払い下げられた。 国道から10メートル程高い崖上のその跡地は、廃線跡だけに南北に細長い地だった。 北の方に集落があったため、中間ほどを横切る沢から北側の地は舗装もされ、国道から車道も付けられたから、住宅が建ち並んだ。一方、沢から南の廃線跡も車道は付けられたものの、舗装されたのは、国道から廃線跡に到るまでの坂道だけで、廃線跡自体は線路が剝がされたままの状態だった。住宅も数軒しか建てられなかった。 いや、本当は今回、廃線跡の再訪が目的ではない。そこに建っていた廃屋の一つが気になっていたのだ。 私は近年、地元や近隣県の怪談ライブや怪談会で、自分や親類の心霊体験を語ることがあるのだが、その影響で、たまに霊が集まりそうな雰囲気の廃屋を訪ねることがある。 実際、廃屋では少ないものの(探訪自体少ないため)、鉱山の坑道や防空壕、人道トンネル等で日中、過去、20枚以上のオーブ写真を撮っている。 この日、再訪した時間帯は17時台であり、通常の日中の時間帯よりもオーブが撮れる確率が高かった。 その廃線跡に建つ、気になる廃屋だが、数軒ある廃屋の内、一軒だけが妙に生活感が残っていた。因みに沢から南の廃線跡は、人が居住している家屋は皆無で、平成前期に皆、廃屋化したようだった。 気になる廃屋は、家財道具は勿論、本や服、ダイヤル式の黒電話まで残っていた。まるで昨日まで生活していたかのように。 その異様な光景を鮮明に覚えているのだが、17年前は廃屋や心霊スポットには興味がなかったから、建物内部の写真は撮っていなかった。 今回も前述の舗装された車道の坂道を上り、廃線跡に出た。この車道が合流した辺りに例の廃屋があった筈だが、藪の密林になっていて、建物の痕跡はない。 記憶違いだったか?と思い、藪をかき分けながら南下していく。17年前は藪もなく、普通に歩けたのに何という変わり様か。 廃線跡の南端近くにまで来た時、ようやく崩れかけの廃屋が一軒現れた。いや、崩れかけというより、取り壊している。が、妙なことに、北端の細長い浴室のみ、残している。明らかに意図的に。 浴室以外は粉々に取り壊しているのに、なぜ浴室だけ残したのか。水も出ないのに。 疑問に思い、浴室内に立ち入ろうとした時、むわっと、生暖かい風を感じた。その瞬間、早くここを立ち去らなければ、と思い、南へと駆け出し、下の道路へと続く石段を駆け下りた。 下りた所は国道の分岐の側で、自転車に乗った男子中学生らしき者が私を不思議そうに見ていた。誰も通らない藪化した廃線跡から下りてくる私を奇異に感じたのだろうか。そして私に声をかけてきた。「何していたんですか?」と。 県都の市街地なら、大人に声をかける子供等、殆どいないが、山村や観光地に近い場所ならたまにいる。そこで例の廃屋を探していたことを話すと、その廃屋のことかどうかは分からないが、祖父から聞いた話だとして、次のようなことを語ってくれた。 あの浴室の残る廃屋のある地にはかつて3軒の民家があった。その内、隣同士の2軒の家族はとても仲が良かった。それぞれ小学校低学年の一人娘がいて、毎日遊んでいた。ある日の日曜、二人の女児は市内の川に遊びに行った。 が、その川は遊泳禁止で、学校ではそこに行くこと自体、禁止していた。二人は最初、川べりで遊んでいたのだが、一人の子が「魚がおる。」と言って川の中に入っていった。 何歩か川の中を進んだ後、いきなりストンと下に落ちた。急に水深が深くなっていたのだ。大人でも水が澄み切っていると、水深を見誤ることがあるが、子供なら尚更。その子は見る見るうちに下流へ流されていった。 もう一人の子は「〇〇ちゃーん!」と大声で呼んだものの、どうすることもできなかった。 その日の夕方、流された子の家では、娘が帰って来ないことから、母親はいつも遊んでいる、そのもう一人の女児に尋ねたが、「途中で別れたから知らない。」と答えたという。 翌日、流された子は下流で遺体となって発見された。その母親は発狂したように泣き崩れ、以来、抜け殻のようになってしまった。 そんなある日、その母親は娘がいなくなった日、自分の娘が隣の女児と川べりで遊んでいた事実を知る。 そこで母親が女児を問い詰めると、泣きながら自分の目の前で溺れたことを認めた。 「何でそれを早く言わんの!?」と、詰め寄られると更に女児は泣きじゃくった。その声に女児の父親が出てきて、母親を宥めたものの、気は収まらないようだった。 それ以来、その母親の、女児に対する目つきが鋭くなった。 それから一週間ほど経った頃、女児の両親は地区の集会に出かけた。家では女児が一人で留守番をしていた。都会では小学校低学年の女児が、一人で留守番をすることはあまりないと思うが、田舎では珍しくなかった。 3時間ほど経って両親が帰宅すると、娘の姿が見当たらない。居間にも寝室にも納屋にもいない。もしや、と思い、浴室を見てみると、水を張った浴槽の中でぐったりしていた。 「何でこんなことに!?」と、両親は悲嘆に暮れた。死因は溺死だった。 両親は、自分たちが留守の間に、娘が浴槽に水を溜めることは一度もなかったし、そもそも浴槽で溺死するような年齢でもない、と、死因に疑問を抱いていた。 それから時は流れ、やがて三軒は廃屋になった。 そんなある日、2人の廃墟マニアが夜中、この廃屋を訪ねた。三軒の内、一軒は家財道具等が残って生活感があり、下駄箱の上には黒電話が置かれたままだった。 建物内に入り、色々と見て回っていると、いきなり黒電話が鳴った。 「マジかよ?」と二人は顔を見合わせたが、物怖じしない一人の方が電話に出てみた。 すると最初は何も声や音は聞こえなかったが、その内、何かゴボゴボするような音が聞こえてきた。 「何か水の音がする。」と言いながら、そのまま聞き続けると、水の音に混じって、微かに子供のような声も聞こえてきた。 「・・・けて・・・すけて・・・」 やがてその声ははっきり聞き取れた。「助けて」 それを聞いた途端、男は受話器を投げ捨て、もう一人と共に一目散に逃げ帰った。 車に戻ると急いでエンジンをかけ、発進したが、その瞬間、激しい衝撃があった。後ろから大型トラックに追突されたのだ。その反動で車は脇の崖に激突、フロント部が大破した。二人も怪我を負った。 そこに一台の軽トラが通りかかり、彼らを救出した。それがこの話を聞かせてくれた中学生の祖父だった。 その後、廃屋群は豪雨等で崩れると国道に落下する可能性があるため、危険だということで取り壊されることになった。が、一軒だけはどうしても撤去できない箇所があった。全てを取り壊そうとすると作業員が怪我をしたり、道具が壊れたりする。そしてやむなく、その箇所は残された。それが浴室だったのだ。 この話は、男子中学生から聞いた時点ではここまで詳細は分からなかったが、その後、祖父宅の場所を聞き、訪ねた。そこは何とその二週間前に偶然訪れた家だった。実はその家の敷地から上の山に続く道を二週間前に登っていた。 それは戦時中の陸軍の砲台跡を探訪するため。実は私、過去に戦争遺跡のガイドブックも出版したことがある。 その祖父には砲台跡周辺の地図まで描いて貰っていた。だから本人も私が再訪したことに驚いていたが、これは浴室で亡くなった女児の霊の導きではないか、とも、思うのだった。

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