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長編

山岳遭難体験記

しもやん 12時間前
怖い 165
怖くない 69
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GPSに完全に依存する形で歩き始めた。  これは簡単に思えるかもしれないが、現場はもともと登山道のないバリルートだ。道はうっすら踏み跡がある程度の頼りない代物で、折りからの土砂降りのせいで霧が発生、ライトは乱反射してほとんど使いものにならない。有効視程は1メートル強にまで下がり、ほとんど真の闇のなかを手さぐりで歩いているような状態に陥っていた。  おまけに晩秋とあって尾根には落ち葉が堆積しているし、雨で非常に滑りやすくなってもいた。わたしは何度も足を取られて転び、背中や肘を強打しながら這う這うの体で歩いた。闇のなか尾根を正確にトレースするのは難しい。スマートフォンで確認するたび、尾根芯を逸れて歩いていることに気づき、慌てて軌道修正する。標高は遅々として下がらない。  自画自賛になるけれども、並みの登山者であればとっくにパニックを起こして半狂乱になって走り回り、名もなき谷へ落ちて命を落としていたと思われる。わたしは無神論者なので、暗闇を怖いとは思わない。これが死との分水嶺になったのだろう。常に冷静さを失わず、木に巻いてあるペナントを見つけるたび、「よし」と声に出して確認し、正解ルートを歩いていることを意識した。  ダイラの頭ルートは尾根が鋭く屈曲するポイントが何か所かある。事前に地形図で分岐点を確認していたのでそれはわかっていたのだが、いざ現場に着くとドロップポイントがなかなか見つからない。陽のあるうちならペナントを頼りに下っていけるが、いかんせんこの闇と雨ではそうもいかない。レインコートを着ていなかったのも災いしていたと思う。体温の急激な低下により、判断力が顕著に鈍っていたのだ。  尾根のドロップポイントを絶望的な気分で探していると、派手な色のレインコートをまとった登山者が降りていくのを確かに目撃した。〈なんだ、あっちに降りていけばいいのか〉。素直にそう思った。いま考えると背筋が凍るのだが、晩秋の日没後の登山道で、しかもバリルートで人に会う確率は限りなく低い。にもかかわらず、わたしは登山者の後を追っていった。  10分ほど歩いたところではたと気づいた。〈わたしはさっきから「よし」と口に出していない〉。これは木に巻いてあるペナントを見ていないことを意味する。ダイラの頭ルートはバリルートではあるものの、ペナントは数メートル、長くても20メートル以内に1つは必ず巻いてあったはずだ。10分ものあいだペナントを見

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  • 臨場感溢れる文章と自分の徹底した客観視が相まって面白かった
    魂観
  • 文才に尊敬と嫉妬です。
    1人で寝れない
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