
長編
山岳遭難体験記
しもやん 2時間前
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体験となった。
* * *
わたしは尾根の分岐点で出会った登山者が幽霊だとは思わない。
おそらく脳が造り出した幻覚だったのだろう。登山経験者ならわかると思うが、疲れ切った下山の最終行程で登りをこなすのがいかに大変かは論じるまでもなかろう。脳が疲労を警告するサインとして、彼は誕生したのだ。〈お前はいまとてつもなく疲れている、登るな、下れ〉。
山岳遭難は例年コンスタントに発生している。わたしが足しげく通う鈴鹿山脈でも毎年多くの道迷い遭難が起きている。もし彼らがわたしと同じ体験をしていたら? 間違ったルートへいざなうように、先駆者がいると錯覚しているのだとしたら?
しばしば遭難者の遺体は想定ルートからかけ離れた地点で発見されることがある。わたしはいつも首をひねっていたものだ。
いまならわかる。彼らは派手なレインコートを着た登山者に導かれるまま、ついていったのだ。
あの世へと続く道へ、そうとは知らないまま。
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- 臨場感溢れる文章と自分の徹底した客観視が相まって面白かった魂観
- 文才に尊敬と嫉妬です。1人で寝れない