
長編
山岳遭難体験記
しもやん 2時間前
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してきた。
下山口が見つからないのなら、適当に阿蘇谷を下ってしまえという無茶な行程に変更、地図上で登山道が伸びている地点から無理やり下山を始めた。知らない読者のために申し添えておく。絶対に地形図の登山道表記を真に受けてはならない。地形図は航空写真から等高線を起こしているので、等高線表記に間違いがある可能性は皆無なのだが、道の表記は数十年前の実地調査の記録をそのまま踏襲している、というケースが常態化している。
そのため実際は廃道になっていたり、新しく造成された新ルートが伸びていたりと、地図と現場が相違する現象にたびたび遭遇する。このときもそうだったようで、地図上は道の上を歩いているはずなのに、現場は急峻な沢があるだけで道などどこにも見当たらなかった。
それでも等高線と現場の地形は一致しているので、構わずわたしは無理やり下っていった。ところが阿蘇谷の上流はV字に切れ込んだ深い谷になっており、とても下っていけるような様相ではない。〈迷ったとき、沢を下ってはならない〉。登山の格言を遅まきながら思いだし、わたしは疲れ切った身体に鞭を打っていったん稜線まで戻った。戻る際も当然道はなく、崖に近い角度の尾根を死ぬ思いで登りきった。
問題はどうやって下山するか、である。過去にダイラの頭から地図に表記のないバリエーションルートを辿って下山したことがあった。尾根ルートであれば沢のように滝や段差で進退窮まる恐れもない。すでに時刻は17:00をすぎており、あたりは闇に包まれていたものの、一度通った道であればバリルートでも下山できる自信があった。
ダイラの頭を目指して稜線を歩いていく。いつもはヘッドランプを携帯しているのだが、この日は別のザックにしていたのでヘッドランプ未携帯だった。こうなればスマートフォンに頼るしかない。とはいえスマートフォンのライトは光量に乏しく、有効視程は2~3メートル程度。まさに一寸先は闇である。
ダイラの頭に着いたのが17:30。ここで天気予報通り雨が降り始める。それも天が割れたかのようなすさまじい土砂降りであった。雨具はあったのだが、どうせすぐ止むだろうと高をくくって着ないまま下山開始(この楽観がのちの窮地へとつながる)。ダイラの頭からのバリルートは尾根があちこちに褶曲する山上の迷路のようなルートで、分岐点を間違えれば復帰不能の谷底へ降りてしまう。わたしはスマートフォンを片手に持ちながら、
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- 臨場感溢れる文章と自分の徹底した客観視が相まって面白かった魂観
- 文才に尊敬と嫉妬です。1人で寝れない