
これは、美容師のYさんが実際に体験した話です。
今から数年前、Yさんはある美容院で働いていました。主にカットやカラーリングを担当し、顧客の要望に応える仕事です。
接客が好きなYさんは、美容院での仕事にやりがいを感じて、毎日楽しく働いていました。
その日もYさんは、午前中にやってきた一人の顧客の髪を整えていました。
顧客は、特に派手な要望もなく、淡々とした会話を楽しんでいました。
しかし、Yさんはその顧客の様子に、少しの違和感を覚えました。
美容院の鏡越しに見るその女性は、髪が長く美しいものの、何かが違うのです。
目がどこか虚ろで、まるで別の世界にいるような印象を受けました。
「何かお困りですか?」と聞くと、彼女はぼんやりとした笑みを浮かべて「いいえ、大丈夫」と返しました。
その後、カットが終わりに近づくと、Yさんは再び鏡を見ました。すると、顧客の後ろに小さな影が映り込んだのです。
それは、黒い喪服をまとった小柄な女性でした。
Yさんは驚き、目を凝らしましたが、その影はすぐに消えてしまいました。
「今のは……何?」と心の中で疑問を抱えつつ、カットを続けました。
しかし、何度も鏡を見直すうちに、その影は顧客の後ろに現れることが増えていきました。
顧客は気付いていない様子でしたが、Yさんはその影が徐々に近づいているように感じました。
ついには、顧客が髪の色を変える際に、影が彼女の肩に触れようとしたのです。
その瞬間、Yさんは背筋が凍る思いをしました。
「やめてください!」と叫びたい衝動を押し殺し、ただその場に立ち尽くしました。
顧客は全く気にせず、静かに髪を染めていました。
やがて、髪が完成し、顧客が鏡を見た瞬間に、再びその影が映り込みました。
今度は、影が顧客の顔をじっと見つめているようでした。
顧客は驚いた表情を浮かべ、振り返りましたが、影は消えていました。
「どうかしたの?」と尋ねると、彼女は「いいえ、何でもない」と微笑みました。
その後、顧客は帰っていきましたが、Yさんはその後のことを思い出すたびに、恐ろしさが蘇ります。
数日後、店の他のスタッフが「最近、あの影の話を聞いたことがある?」と話していました。
「美容院で、顧客に寄り添うように現れる影がいるって。」
Yさんはその言葉を聞いて、全身が震えました。
もしかして、あの顧客はその影に取り憑かれていたのかもしれないと。
それ以来、Yさんは美容院での仕事が怖くなり、結局辞めてしまいました。
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