
短編
夢
匿名 2日前
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私の父は7人兄弟の末っ子、長男とは15歳年が離れていました。
昭和18年冬、夕飯が終わると父は祖母と一緒にコタツに入って勉強していたそうです。いつもは厳しく勉強を見守る祖母がその時はウトウトしていたそうで、父も珍しい事もあるものだと思ったそうです。しばらくすると祖母が大変だ!と叫び目覚めました。そして毛糸を取り出し一心不乱に編み物を始めたそうです。何事かと父が問うと、「炭鉱で長男が落盤事故に巻き込まれた。水浸しで閉じ込められ寒い、寒い、かあさん腹巻きが欲しい!」と言っている、と答えたそうです。父は寝ぼけているんだなと思ったそうですが、翌日になっても祖母は編み物をやめず早々に腹巻きを完成させたそうです。しかし戦時中のこと長男がどこの炭鉱で働いているのかは家族ですら知らされてはいなかったので腹巻きはそのままにされたそうです。しかし祖母は何故か平然としていたそうです。それから一週間ほど経ってから長男から手紙が届いたそうです。今は北海道の炭鉱で将校として現場を指揮しているが先日落盤事故があり自分も閉じ込められた。無事に救出され怪我はない。しかし寒さが身にしみるので腹巻きが欲しい、と記されていたそうです。その事故の日にちは祖母が夢に見たまさにその日だったそうです。結局その腹巻きを長男に届けることはできなかったようですが、祖母の思いは届いたのではないでしょうか。
長男はその後どんな経緯があったのか私は聞いていないのですが特攻隊員となり訓練の毎日、出陣の日も決まっていたそうです。しかし祖母は大丈夫帰って来るからと平然としていたそうです。時代がそうした態度をとらせたのではと思いましたが、父が言うには祖母は生還を確信していたそうです。そして出陣のわずか二日前に終戦を迎えたそうです。
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