本当にあった怖い話

怖い話の投稿サイト。自由に投稿やコメントができます。

中編

地獄の理科…

匿名 2025年4月20日
怖い 162
怖くない 100
chat_bubble 0
4,257 views
# 鈴木くんの窮境 あの日の教室は、春の日差しが窓から差し込み、黒板に浮かぶ粉塵が天国への階段のように輝いていた。私はただの傍観者であった。人生とは、結局のところ、他者の苦悩を眺めるだけの長い廊下なのかもしれない。 隣に座る鈴木くんの顔色が青ざめていることに気づいたのは、理科の授業が始まって十分も経たぬうちであった。彼は時折、腹部に手を当て、小さな呻き声を漏らしていた。まるで内側から何かに蝕まれているかのように。 「大丈夫か?」と私は小声で尋ねた。愚問であった。明らかに大丈夫ではない。しかし人間とは、そうして明白な真実を言葉で確かめずにはいられない哀れな生き物なのだ。 「う、うん...大丈夫」 鈴木くんの声は震えていた。彼の額には冷や汗が光り、その瞳には恐怖の色が宿っていた。私には分かっていた。彼の内部では、激しい闘争が繰り広げられているのだ。肉体という名の牢獄の中で、尊厳と生理的欲求が死闘を繰り広げているのだ。 小学生にとって、排便とは恥辱の象徴である。いや、それは人間という不完全な存在すべてに課せられた、永遠の十字架なのかもしれない。我々は皆、美しさと醜さを同時に抱えている。それを認めることこそが、真の成熟というものではないだろうか。 鈴木くんは次第に机に突っ伏すようになった。まるで嵐の中で折れそうになる若木のように、彼は自分の内側の嵐に耐えようとしていた。私は彼の苦悩を見つめるしかなかった。それが友情というものなのか、あるいは人間の残酷さなのか、私には判断できなかった。 「鈴木くん!授業中に居眠りをするとは何事だ!」 理科教師の声が、教室に雷のように響き渡った。鈴木くんは震える手で教科書を持ち上げた。彼の指先は蒼白で、まるで死者の手のようであった。 「立って、43ページを読みなさい」 鈴木くんはゆっくりと立ち上がった。彼の足は揺れ、顔は蝋のように青白かった。私は彼の瞳に映る絶望を見た。それは深淵のように暗く、そして底知れなかった。 彼は教科書を開き、異常なほど大きな声で読み始めた。その声は教室中に木霊し、まるで彼の存在そのものが叫んでいるかのようであった。 「植物は、太陽の光を受けて...光合成を行います!そのプロセスで...酸素を...放出するのです!」 鈴木くんの声は、自らの内なる音を打ち消そうとするかのように、教室中に響き渡った。それは必死の祈りのようでもあり、最後の抵抗のようでもあった。 そして彼が読み終えた瞬間、世界は変わった。 「ぶりゅりゅりゅちりゅちちち〜っっっ!」 その音は、彼の尻から解き放たれた悲しみの歌であった。それは人間の弱さの賛歌であり、肉体という牢獄からの一時的な解放の調べであった。それは彼の敗北の音色であり、同時に彼の勝利の証でもあった。 教室は一瞬、静寂に包まれた。そして次の瞬間、笑いの渦が巻き起こった。私も例外ではなかった。その笑いは私の内側から溢れ出し、やがて嘔吐へと変わった。 私は吐いてしまった。ゲロという美しい虹を。 大便と嘔吐。それは人間という矛盾に満ちた生き物の象徴なのかもしれない。喜びと苦しみ、美と醜、崇高と卑俗。それらはすべて、私たちの中で混在している。 鈴木くんは顔を真っ赤に染め、教室を飛び出した。彼の背中は小さく、か細かった。私は彼が去っていく姿を見つめながら思った。私たちは皆、いつか自分だけの「ぶりゅりゅりゅ」の瞬間を迎えるのだと。そしてその時、他者の笑いの中に溶けていくのだと。 それが人生という名の喜劇の真実なのだろう。

後日談:

  • ノンフィクション

この怖い話はどうでしたか?

f X LINE

chat_bubble コメント(0件)

コメントはまだありません。

0/500

お客様の端末情報

IP:::ffff:172.30.1.202

端末:Mozilla/5.0 AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko; compatible; ClaudeBot/1.0; +claudebot@anthropic.com)

※ 不適切な投稿の抑止・対応のために記録される場合があります。

label 話題のタグ

search

一息で読める短い怪談

読み込み中...

じっくり染み込む中編怪談

読み込み中...

最後まで読む勇気が試される怪異記

読み込み中...
chat_bubble 0