
「大丈夫? ちゃんと塗れてる?」
私は新入生のマリに尋ねる。
「うーん、ちょっとはみ出してますね」
マリが私の頬を見つめながら答える。
私は手元に置いていた化粧品を見つめる。
「仮装って、意外と難しいね」
私は大学の映画研究会に所属している。
この映画研究会は映画制作を口実に、主に飲み会がメインの緩いサークルだ。
今日はハロウィンのイベントを企画しており、仮装の準備を進めていた。
「やっぱり、コスプレ衣装を借りた方が良かったかも」
「それじゃ創造性がないって、先輩が言ってたじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけど。あの人、妙にこだわるからね」
1年上の佐藤の名前を出されて、私は少しドキリとする。
1年前から、私は佐藤と良い関係を築いている。
サークルで知り合い、なんとなく意気投合し、忘年会の後にそういう仲に発展した。
付き合い始めると、彼は軽そうに見えてしっかりした考えを持っていることが分かり、今でも関係は続いている。
そんな関係はサークル内でも公認だった。
しかし、どうもマリが佐藤に好意を抱いているようだ。
直接聞いたわけではないが、彼女の態度や会話の回数から何となくそう感じていた。
嫉妬心を差し引いても、恐らく間違いないと思う。
とはいえ、まだ疑惑段階で避けるのもやり過ぎだろう。
今日の仮装準備も、あえて断る気にはなれなかった。
世の中の全てが恋愛で回っているわけではない。
今日選んだ仮装は、古いホラー映画のキャラクターだった。
顔を白塗りにして、目を強調したメイクを施し、髪を乱しておけば誰でも通用するやつだ。
私はしっかりと化粧品を選んだつもりだったが、思ったよりも化粧は崩れやすく、動くたびに肌が露出する。
「もう少しだけでも肌に密着するといいんだけど」
マリが私の顔を見つめながら、化粧の位置を直してくれる。
「やっぱり、ちょっと剥げちゃってますね」
「そうか…じゃあ、もう一度塗り直そうかな」
「良い案かもしれませんね……あ、でもまずいかな」
マリが口ごもる。
「何? 何か案があるなら教えて?」
「いや、もし密着させるなら、なんですけど」
「ん? どういうこと?」
「化粧品の上に保湿クリームを塗ったら、密着するんじゃないかなって」
「あ、保湿クリームか」
確かにそれなら、化粧もきれいに密着するかもしれない。
「でも、べたつきそうだし、全体に塗るのは気持ち悪いですけど」
「いや、やってみようよ」
「そうですか? わかりました」
マリはバスルームに行き、大きなクリームの瓶を持ってきた。
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