
「これ、見てくれよ。」
友人の光一が差し出したのは、古びた肖像画だった。そこには二人の老夫婦が描かれていたが、女性の周囲には濃い霧のようなものが漂い、男性の顔には不気味な影がかかっていた。
「この絵、うちのじいちゃんが亡くなる前に見つけたんだ。ずっと気味悪がってたけど、何が変なのか分からなくてさ。」
光一は困惑した様子で続けた。「じいちゃんはちょっと変わった人で、昔の話や言葉が好きだった。最近、『むけん』って言葉をよく口にしてて、俺も意味が分からなかったんだ。」
その言葉を聞いて、僕は一瞬凍りついた。確かに、昔の言葉で地獄を指すことがあると聞いたことがあったからだ。彼はさらに話を続けた。「じいちゃんが亡くなった時、夢の中にばあちゃんが出てきたって言うんだ。すごく楽しそうにしてたみたいだけど、最後に『私はむけんに行くから、お前も来るんだよ』って。」
その瞬間、僕の背筋が寒くなった。光一は絵を見つめながら、話を続けた。「それから、じいちゃんが俺に『あいつがむけんに行くのはお前のせいだ!』って言ってきたんだ。いくらなんでも、じいちゃんを恨むなんて考えられなかったけど…」
彼の言葉を聞いていると、次第に不安が募っていく。僕は、彼のためにこの絵を調べることを決意した。次の日、大学の同級生で霊的なことに詳しい美月に相談することにした。
美月は絵を見て、すぐに深刻な表情になった。「この男性は、恐らく地獄に落ちてしまったのね。この女性が彼を連れて行く役割を果たしているのかもしれない。」
「それに、光一が言っていた『むけん』という言葉は、地獄を表す古い言葉なの。彼のじいちゃんは、恐らく光一を守るために自分の身代わりになったのかも。」
僕は、光一にこのことを伝えようか迷った。結局、彼にはじいちゃんの代わりに地獄に送られたことを告げられなかった。彼の夢の中に現れる人物が、何を意味するのかも分からなかったからだ。自分が不幸になることを望むほど、愛情深い親というものは理解できない。そんな思いが頭の中で渦巻いていた。
「じいちゃんがむけんに行くのはお前のせいだ!」
その言葉が、心の中で響き続けていた。
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