
広い家の話です。
これは、知り合いのお兄さんから聞いた話だって、先輩が言っていました。
だから本当かどうかはわかりません。でも、私はちょっと本当だと思っています。
その家は中庭があって、石の柱が並んでいて、夜になると風が通り抜けるらしいです。すごく立派なのに、誰も住まない。理由は単純で、夜になると鎖の音がするから、だそうです。
そのお兄さんは、安いからという理由で借りたそうです。噂は聞いていたけど、確認もしないで怖がるのは変だと思ったらしいです。ちょっとかっこつけてる感じがします。
夜、書台を置いて、蝋燭を灯して、巻物を広げていたそうです。筆で何かを書いていた、と。静かで、筆の音だけがしていたらしいです。
それで、金属を引きずるみたいな音がしたそうです。
規則的じゃなくて、止まったり、また動いたりする音だったって。呼吸みたいな間があったって言っていました。
でも、そのお兄さんは顔を上げなかったそうです。音は現象だから観察できる、とか言ってたらしいです。私はちょっと意味がわかりません。
音は部屋の入口で止まって、蝋燭の火が細くなった。
そこに、老人が立っていたそうです。痩せていて、手首と足首に鎖を巻いていたって。鎖は床を擦っているのに、床には傷がつかない。足も地面についていないし、影もない。
老人の目は、お兄さんを見ていなかったらしいです。家の奥を見ているみたいだったって。
それで、お兄さんは筆を止めなかったそうです。
老人は中庭に向かって歩いて、中央で振り向いた。
そのとき、目が合ったって。
怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなくて、ただ、確認するみたいな目だったそうです。
その瞬間、お兄さんの筆が勝手に動いたらしいです。
自分では書くつもりがなかったのに、紙に一行だけ増えていたそうです。
「ここにいると認める」
って。
そのあと老人は消えた。
翌朝、お兄さんは中庭を掘り返させたそうです。鎖に絡まった骸骨が出てきたらしいです。埋められた形跡はなかったって。
みんなは、これで終わりだって言ったそうです。
でも、その夜、家は静かだったのに、何かが違ったらしいです。
鎖の音はしない。でも、書台に向かうと、前に書いたはずのない紙に、同じ一行が残っている。
「ここにいると認める」
筆跡は自分のものだったって。
それから、机の脚に細い鉄の輪が巻きついていたそうです。昨日はなかったのに。軽いけど、外れない。
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