
長編
消えた先行者
しもやん 3日前
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あり、進軍は顕著に鈍る。こんな深雪のなか、ツボ足ラッセルをこなす登山者とはいったい何者なのだろうか。
正午ごろ、御座峰(1,070メートル)の頂を踏む。稜線に出た瞬間すさまじい強風にあおられ、反射的に対風姿勢をとった。冬季に伊吹北尾根が穏やかな様相であることはまずない。この日も風速は推定15メートル、厳冬期の典型的な環境であった。
くだんのトレースは御座峰山頂を踏んだあと、伊吹山ドライヴウェイ方面へ向かって南進しているようだった。小ピークのたびに増えていったトレースは累計5本あり、それぞれが無手勝流に南を目指していた。こちらもトレースを追って南進する。
冬季ラッセルでは先行者の負担が段違いに大きい。後発は穿たれたトレースを追跡するだけなので、両者の差は原則、徐々に縮まっていく。遠からず先行者に追いつけるはずだ。
983メートルピークを過ぎ、1,149メートルピークを目指す。ピーク間のコルに降りたあたりで、遠くから銃声のようなすさまじい爆音が聞こえてきた。天地を揺るがすような振動が遅れて伝わってくる。落雷でもあったのかと空を見上げると、相変わらずの快晴である。猟期なのでハンターが鹿でも撃ったのだろうと自分を納得させた。そんなことより先行者に追いつかねば。
いつしかわたしは憑りつかれたように足を運んでいた。昼食も食べないままひたすらトレースを追う。なんとしても先行者がどんな連中か確かめたい。水を捨てて機動力を上げる。もう遠めに先行者が見えていてもよい頃合いのはずだ。
13:40、北尾根とドライヴウェイの接続点である静馬ヶ原に到着した。ここでわたしはわが目を疑う光景に出くわす。静馬ヶ原には雪がいっさい積もっていなかった。部分的に融雪が進んだのではない。まるで巨人の拳があたりを薙ぎ払ったかのように、半径5メートル、深さ50センチメートルほどの円形の穴になっていた。一昔前に流行ったミステリーサークルを彷彿とさせる光景であった。
それだけではない。例の5人分のトレースもそこで途絶えていた。ドライヴウェイに這い上がって伊吹山を目指すのでもなく、春日村のさざれ石公園へ降りたわけでもない。トレースはどこにも見当たらなかった。先行者たちが巨人に連れ去られたとでもいうかのように。
わたしは数歩後ずさり、どうにか眼前の光景に合理的な説明をつけようと頭をひねった。直径10メートルにも達する巨大な穴は(やろうと思い
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