
長編
封印されたもの
ぼろぼろ 2017年3月24日
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私は小学一年生の時、一ヶ月ほど
親戚の家に預けられた事がある。
青森にある祖母の妹の家だ。
家族の中で私だけが預けられる
という非常事態に
初めは断固 拒否した。しかし、
従姉妹の弥生ちゃん(仮名、小六)も
一緒だと知り
しぶしぶ了承した。
当時は、どうしても家族で外国に
行かなければならず、しかし、私は
飛行機に乗れる年齢に達していない為
連れて行けないといったような事を
聞かされていた。
私だけ親戚に預けられるという理由を
親なりに考えたのだろう。
まだ一年生だった私は、何の疑いも
持たなかった。
夏休みに入ってスグに出発した。
行く時は母と祖母が付き添ってくれたが
翌日には帰って行った。
それと入れ替わるように弥生ちゃんも
やってきた。
その日は弥生ちゃんと一日、自由に遊んだ。
自然が多く見慣れない土地を探索するのは
思いの外、楽しかった。
その日の夜、昭子おばちゃん(祖母の妹、仮名)に
「明日から弥生ちゃんと桃子ちゃん(私、仮名)には
“お勤め” してもらうからね」と言われた。
毎日、お寺さんに行って、ある事を
すると言う。
それを昭子おばちゃんは、お勤めだと
言った。
何の事か知りもしなかったが、なんだか
秘密めいていてワクワクしたのを
覚えている。
翌日からは規則正しい生活が始まった。
大雑把であるが、
朝は6時半に起床。
朝食の後、玄関とトイレの掃除や
食器洗いの手伝いなどをした。
その後、一時間ほど夏休みの課題を
したら お寺に向かう。
昭子おばちゃんの家から徒歩20分
くらいの所に お寺は あった。
大抵は おじさん(昭子おばちゃんの旦那さん)が
車で送り迎えしてくれたが、おじさんが
不在の時は歩きの時もあった。
お寺に着くと6畳間くらいの部屋に
通され ある作業をした。
この作業の事は、何をしていたのか
実は覚えていない。
そして、その作業が終わると広い本堂に
通され、お経を唱える ご住職の後ろで
私と弥生ちゃんも手を合わせた。
お寺に着いてから帰るまでは
一時間から一時間ちょっとの事
だったと思う。
帰ると ちょうど昼時であった。
昼食を済ませてからは夕食まで
自由だった。
私は毎日の手伝いと お寺通いで
疲れてしまい、毎日、昼寝を
していた。
私が昼寝をしている間、弥生ちゃんは
課題をやったり本を読んだりしていた。
そして私が起きると夕食までは
外に出て遊んだ。
近所の同じ年くらいの何人かと
友達になっていたので
毎日、退屈はしなかった。
夕食は私と弥生ちゃんだけ
6時半くらいに食べていたので
私達の食器は私達で洗った。
その後、弥生ちゃんと一緒に
お風呂に入って後はテレビを見たり
絵本を読んだりして9時から
9時半には寝るという本当に
規則正しい生活を送っていた。
そんな日々を送っていた
私と弥生ちゃんだが、
いよいよ帰る日が やってきた。
二学期が始まる一週間ほど前
だったと思う。
家に帰るとスグに日常に戻った。
一ヶ月も家族と離れていたのに
ギャップも違和感も無かった。
月日は流れ、私が成人式を迎えた時
祖母は他界していたが、祖母が生前に
プレゼントを用意してくれていて
それを母から渡された。そして、
今だから言うけど… と言いながら
話し始めた。
「小学一年生の時、青森の親戚の家に
預けられていた事、覚えてる?」
私は頷いた。
その時は、預けられたという事しか
覚えていなかった。多分、青森から
帰ってきてから何故か誰も その事に
触れなかったから私の記憶から
遠退いてしまったのだと思う。
そして、私が預けられた本当の
理由が母から語られた。
私は霊媒体質だったのだそうだ。
ただ、受けるだけ受けて
それを回避する術(能力)は無かった。
このままだと命に危険を及ぼす事も
無きにしもあらず、という事で
早いうちに対処しようという事だった
らしい。
色々と当たってみたところ、
昭子おばちゃんが相談していた
お寺の ご住職が引き受けて
くれる事になったそうだ。
私は全く覚えていないが、
預けられる前に ご住職が
家まで尋ねてくれたそうだ。
そして、
「これは少し時間が必要です」
と言われ、直接、お寺に出向いて
もらうのが最も早道だという事で
私は昭子おばちゃんの家に
預けられる事になったそうです。
従姉妹の弥生ちゃんにも
その気が少しあったようで
話し合いの結果、二人とも
預けられる事になったそうです。
母は、反対したそうです。が、
このままだと普通の生活が
送れなくなるだろうと言われた
そうです。
一方的に受けるだけで
回避する能力が無かったので、
将来、修行して その道に入るか
今の体質を封印してしまい、
普通の生活を送るか…
どちらかの選択を迫られ、母も
封印する事に同意したそうです。
私は、なんだか他人事のようで
あまり驚きませんでした。
殆ど記憶に残っていなかったので。
当時の事は ある程度、覚えているの
ですが、肝心な所は抜け落ちている
のです。
ただ単に、嫌な事は忘れてしまって
いるのか、あるいは、その辺りも
封印されたのかは定かでありませんが。
その後、弥生ちゃんに会って
色々と訊いてみました。
実は、昭子おばちゃんの家に
預けられていた時の日課は
弥生ちゃんから聞いた事です。
何をやって過ごしたか、なんとなく覚えて
いますが、時間までは覚えていません
でした。
弥生ちゃんは毎日、課題でスケジュール表を
時間毎に付けていたので詳しく
覚えていたようです。
弥生ちゃんと話しているうちに、
私も思い出しました。
ただ、お寺で何をしていたのか…
個室で ある作業をしていた事を
訊いてみたのですが、それは覚えて
いないとの事でした。
当時、弥生ちゃんは6年生
だったんですけどね…
本当に覚えていないのか
どうかは、分かりません。
そして私は、“普通の人” として
暮らしています。
命に関わるような出来事も
ありません。
お祓いだの除霊だの出来るような
霊能者でも ありません。
幸か不幸か、その辺に居る
普通の人として暮らしています。
(私的には幸だと思っています。)
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