
長編
自分じゃない自分
匿名 2017年7月22日
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これは5年ほど前に体験した本当にあった話。
長いですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
俺は都内で独り暮らしをしていたんだが、ある梅雨時期の日の夜、寝ようとしていると親友のS君から電話がかかってきた。
電話に出るとすぐS君は
「彼女といる? 音楽かけてる?テレビつけてる?」
としつこく聞いてきた。
でも俺は寝ようとしてたので、当然音楽もテレビもつけてないし、S君の言う彼女とは別れていたので一人きり。
そう伝えるとS君は、腑に落ちない様子でこう言ってきた。
「なんか、近くに女の人が居るような感じがするんだよね。でも一人だって言うから、音楽か何かかけてるのかなって思った。」
当時、部屋の一番奥に大きな磨りガラスの窓があって、その目の前にベットがあったんだけど、その窓の向こうにある狭めの道から、話し声が聞こえたりすることがあった。
「窓の向こうの道を誰かが通って、その人の声が聞こえたんじゃん?」
と、俺は話を切り上げてすぐ電話を切ったんだけど、ずっと窓の目の前にいたのに話し声も人の影も見えなかったから、内心かなり気持ち悪かった。
今思うとこれが異変の始まりだったと思う。
その日以降、部屋の気持ち悪さが拭えなかった俺は、とても霊感が強く、実家がお寺をしているお坊さんでもあるR君にお願いして、家に来てもらうことにした。
R君は家に入るとすぐ、周りをキョロキョロと不思議そうな顔で見渡し始めたから、どうなのか聞いてみると、Rからの回答は
「良いのか悪いのか分からないけど、確かになんか変だね。」
でもその後3~4時間くらい、音楽を聴いたりゲームをしたりしたけど、R君が何かを気にするような素振りはなかった。
R君が帰る時、家の前まで出て見送った後、俺はバイクで近くのコンビニに行った。
時間にすると10分もなかったと思うけど、帰って来てケータイを見ると、不在着信が入っているのに気がついて、電話の相手をみるとR君だった。
何の電話なのか確認しようと折り返すと
「え?逆にどーした?」
と尋ねられた。
どういうことなのか分からず事情を聴くと
「帰りだしてすぐ電話くれたじゃん? すぐに車を止めて出ようとしたんだけど切れたから、かけ直した。」
と言われた。
俺はR君が帰ってすぐバイクに乗ってたから電話なんかできないし、コンビニでもケータイに触れてないし、更には俺のケータイの発信履歴には、R君の言う1回目の電話をかけた履歴が残っていなかった。
でもその日以来、R君との電話の度に変な現象が起き始めた。
俺は電話して話したはずのことをR君は覚えてなかったり、R君は話したと言うけど俺は聞いてない話をされたり、お互いのケータイにある発信履歴と着信履歴の件数と時間が合わなかったり。
(俺はR君に今日1回しか電話してないのに、R君のケータイには俺からの着歴が2件ある等)
それは正に『自分じゃない自分』がいるとしか思えないような現象だった。
更にはR君との電話中、R君の電話にキャッチが入ったのだが、その相手が俺の番号からだったなんてこともあった。
こんなことが1~2週間続いたから、当然お祓いの話になったんだけど、それで気づいたこともあって、それはお祓いの話をした時、相手にお祓いを反対された場合、その電話を相手は必ず覚えていないことだった。
つまり俺らの声を使って電話してくる『自分じゃない自分』は、お祓いを反対するってことだから、それで『本物』か『自分じゃない自分』か確かめられると。
気づいたら気づいたで余計怖かったけど。
でも正直、こんな不可解な現象が10回以上起こっても半信半疑だった。
だってR君相手でないと起こらないことだから、変な話、R君が演技したり嘘をついたりしてるだけの可能性があったから。
そこで俺はR君に「2日ぐらい一緒に居てみよう」と提案し、そうしてみることになった。
その日は俺の家にR君が来てくれて、とりあえず車で走るかって感じになったから、俺は助手席に乗った。
しばらく走っていると、カーステレオの上の小物置きに置かれていたR君のケータイが鳴った。
R君は運転しながらケータイを手に取って画面を見たんだけど、目を見開いて驚いた顔をしたかと思うとすぐ、車を路肩に止めて
「お前、電話かけてないよな?!」
と、青ざめた顔で必死に聞いてきた。
俺はその時、ケータイでゲームしてたから、電話できないと言ってケータイの画面も見せた。
当時はガラケーだったから、何かをしながら電話するなんてこともできなかった。
するとR君は青ざめた顔のまま、ゆっくりとケータイの画面を見せてきたんだけど、画面には俺の名前とケータイ番号が表示されていて、本当に間違いなく着信していた。
俺とR君のどっちが出るのかで少し揉めたけど、自分からの電話には出たくないと、俺は必死に拒否って、R君に電話に出てもらった。
R君が電話に出ると、ケータイの電話口から俺の声が聞こえてきた。
「、、もしもし」
その声を聞いた瞬間R君は
「うわあぁぁぁぁぁ!!」
と声を上げて、ケータイをフロントガラスの方へ投げた。
ケータイは開いたまま窓にぶつかって、小物置きのところに落ちたんだけど、ちょうど画面が俺に見える角度で落ちた。
無意識にR君のケータイ画面を見ると、先程までと同じく俺の名前が出てる。
でも電話番号が
『00000000000』
に変わっていた
正直、見た瞬間に恐怖で言葉を失ったし、頭も真っ白になったから、桁数がこれで合っているかは分からないけど、全て『0』だったのは確か。
「これでR君の嘘の可能性はなくなった。
本当にヤバイ。どうしよう。」
そんなことをぐるぐると考えていると、いつの間にか車は俺の家の前にいた。
「急で悪いけど今日の夜中、もう一回来るから、待っててくれ。」
R君はそう言うと、俺を車から降ろしてすぐに帰っていった。
俺は言われた通り待っていると、R君はお坊さんの格好で家に来て、お経が書いてある書?と数珠を持っていた。
準備ができてるなら行くぞと言われ、車に乗り込むと車を走らせて1時間ほどで、おそらく名前を聞けば知ってる人も多い有名なお寺に着いた。
時間は深夜1時過ぎ。
境内を道なりに進み、やがて見えてきた大きな本堂の目の前を左に曲がると、小さな小屋のようなところに、160㎝前後ぐらいある観音様のような石像があった。
石像の回りにはたくさんの風車が置いてあり、壁には千羽鶴が何個もかかっていた。
その前につくとR君は合掌し、お前もやれと数珠を渡されたので、俺も目を閉じて数珠を手に合掌した。
R君は隣でお経を上げ始め、そのときは長く感じたけど、多分実際は5分から10分くらい経った頃
ジャリ、、ジャリ、、ジャリ、、、
と後ろから明らかに俺らの方に向かって来る足跡が聞こえ始めた。
それは絶対に『人』ではない気がした。
するとR君はお経をやめて、前を見るように言ってきたので、俺は手は合掌したまま目を開けると、目の前の小屋の風車が全て、勢いよく回っていた。
明らかに風はないし、壁にかかった千羽鶴は揺れてもいないのに、風車だけが全てガラガラと音を立てて回っている。
「来てる証拠だよ。おそらく電話の現象を起こしてる奴がすぐ後ろにいる。」
R君はそう言うと、合掌をしたまま後ろを振り返り、俺にも振り向くように促すと、再びお経を上げ始めた。
怖い気持ちを必死に押さえて俺も振り返ると、3mほどの距離に女の人らしき人が立っていた。
ぼんやりとしていたし、夜で暗いので輪郭も顔もはっきりとは見えないけど、女の人なのは分かった。
それを見たあとすぐ目を閉じて
「もう俺たちに構わないでください。」
と願って少し経った時、不意にR君に肩を叩かれたので、パッと目を開けると目の前にぼんやりと見えていた女の人は消えていた。
そのあとR君は、本堂にあるお賽銭箱へと続く階段のところに腰を降ろすとこう言った。
「あれはおそらく生き霊で、俺もR君も面識がある人。お前に関係のある人で、俺らどちらにも怒ってる人だな。」
俺は思い当たる人を必死に考えてみると、ふとある人物が頭に浮かんだ。
そしてR君に言うまでもなく、その子だと確信したし、R君も間違いないと言っていた。
それはつい最近まで付き合っていた彼女のことで、冒頭でS君に聞かれたと話した彼女のこと。
実はその彼女のことを、俺はR君やS君と遊びたいからという超自分勝手な感じで振っていた。
つまり彼女にとって、別れる原因を作ったのはR君とS君で、当時よく遊んでいたのは断然R君の方だったから、標的はR君。
そのR君の声を借りて俺に電話をすれば、俺と話せるし、俺の声を借りてR君に電話をすれば、R君を俺から離そうともできると。
それに生き霊は、想いによって出たり入ったりするものだから、R君的にはっきりしなかったらしい。
そのあとR君にはしっかりとお祓いをしてもらい、1日様子を見て何もなければ大丈夫だけど、それまでは安心できないと言われた。
そしてもうすぐで1日経つし、多分解決だなと思い始めた頃。
お祝いもかねてR君の家で呑んでいると、R君は酔っぱらって上半身裸で窓にもたれ掛かって、手を外に出して涼んでいた。
するといきなりガタッと大きな音を立てて、R君が窓の外へ落ちそうになった。
R君の部屋は3階で、落ちたらタダでは済まないから
「大丈夫か?」
と俺がR君に話しかけると、R君は酔いが冷めた様子で、左腕を俺に見せてこう言った。
「最後の最後にやられそうになった。」
腕をみると赤紫色に細い指の手形が付いていて、その手形の爪の部分のところには、明らかに爪を立てた様に傷が付き、血が滲んでいた。
でもそれ以降、変なことは起こらなくなった。
R君の腕のアザも綺麗に治ったし、彼女は結婚して幸せにしてると知り合いから聞いた。
でも最後にR君から言われたことで、今でも気を付けようと思っていることがある。
生き霊に取り憑かれた状態のまま、生き霊を出している本人が亡くなってしまった場合。
今回の話で言うと、俺に彼女の生き霊が取り憑いたまま、彼女が何らかの理由で死んじゃった場合。
そうなった時、取り憑いている生き霊の本人があの世にいるから、取り憑いている相手もあの世に連れていこうとする。
つまり、道連れ。
俺が今回の体験で、何が一番怖かったかと言うと、俺にフラれたショックで彼女が自殺してたら俺は助からなかったし、生き霊を戻す先の本人がいないから、お祓いも出来なくなってたと、後々聞かされた時だった。
こういう『お祓いもできず、最悪の結果を待つしかない状況にしてしまうもの』を『呪怨』って言うんだよとも言われた。
ここまで読んでいただいた方には是非、改めて覚えておいてほしいです。
人との繋がりが常の世の中だからこそ、人の気持ちは大事だと。
人の想いを踏みにじった先にあるのは、避けられない『死』だと。
長文なのに駄文でしたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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