
中編
デパートの訪問者
しもやん 2日前
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俺はある地方都市に住んでいる。この手の田舎にはやたらに店舗を一か所に集めたがる悪癖があって、そこらじゅう田んぼだらけのなかにででんとでっかい統合型デパートが建ってたりする。
これはそんなデパートで俺が体験した、いまもって腑に落ちないできごとである。
もうずいぶん前、まだ例のデパートの2階に店舗が入っていたころだったと思う(いまでは不況の波に押されて全店が撤退してしまった)。服の買い物かなにかをすませて帰ろうとした矢先、だしぬけにもよおしてきた俺はトイレに駆け込み、用を足した。でっかいほうをだ。
そのトイレは2階の角に作られており、1階の食料品を主力にしていたデパートだったためか2階に人はまばらで、俺が駆けこんだときも誰一人いなかった。照明は薄暗く、不釣り合いなほど便器の多いタイル張りのトイレ。
しんと静まり返ったなか用を足し、しばらく個室にこもってぼんやりしていると、本当になんの前触れもなく、いきなり個室をノックされた。ノックされるまで足音すら聞こえなかった。
「**くん?」
声から判断すると、30~40代くらいの女性だろう。名前の部分は聞き取れなかった。俺は正直に言って、死ぬほどビビった。どう考えてもいま起きている現象は理解しがたい。ここは男子トイレだし、俺は今日一人で買い物にきている。
彼女が幼い子どもの母親かなにかで、子どものようすを見にきたとしよう。でもそれならふつう、女子トイレのほうでさせるんじゃないか。ようすを見にくるほど心配なら、そもそも一緒にいてやればいいだけの話だ。
男子トイレに堂々と入ってきて、ひとつだけ鍵のかかった個室をあえてノックする女。幽霊であれ人間であれ、相手がまともでないことだけは確かだった。その狂女が扉1枚隔てた向こう側にいる。かすかに息遣いも聞こえてくる。じっとこちらの動きをうかがっているかのようだ。
「**くん?」
もう一度ノックがあった。名前の部分はやはり聞き取れなかった。途端に鍵をかけたのか心配になった。かけてあるはずだがそれを確認するのは気が進まない。かけてないとわかった瞬間、それが相手に伝わるような気がした。
息を殺し、ねっとりと流れる時間にひたすら耐える。早くいなくなってくれ。俺は**くんじゃない。
どのくらい時間が経ったのかわからないが、いつまでもトイレにこもっているわけにもいかない。俺は意を決して扉を開けた。
誰もいな
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- カップルでデパートに来て、かくれんぼでもしてたんだろうか。ま-
- きみが悪いですね。 自分がもし同じ立場だったらって思うと めちゃくちゃ怖いです。ママちゃん
- 怖いです!うんこりん