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命令を飲む
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命令を飲む

16時間前
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俺がその話を聞いたのは、大学病院で臨床試験のバイトをしていた友人からだった。

「プラセボ効果なんて、要するに思い込みだろ?」

そう笑った俺に、あいつは妙に真顔で言った。

「いや。あれは“思い込み”じゃない。

引き金だ」

その病院では、新薬の二重盲検試験が行われていた。被験者にも医師にも、本物か偽物かは知らされない。

偽薬を飲んだグループの三割以上に症状の改善が見られた。そこまでは教科書通りだ。

問題はその後だった。

試験終了後、「あなたが飲んでいたのは偽物です」と伝えた数日後、改善していたはずの症状が一斉にぶり返したという。

「それだけじゃない。偽物だと告げた瞬間、心電図が変わったやつがいる」

ただの説明で、波形が変わるか?

「変わる。しかもな、本物の薬を急に止めたみたいな離脱反応が出た」

そこから先は論文化されなかった。データは封印されたままだという。

海外の研究では、偽の鎮痛剤で脳内エンドルフィンが分泌され、ナロキソンで打ち消される実験がある。嘘の薬でも、脳は本物と同じ反応を起こす。

「ある被験者がな、医者にこう聞いたんだ。

“先生、この薬、効きますよね?”って」

医師は笑って答えた。

「ええ、きっと効きますよ」

その一言で、血圧、炎症マーカー、痛覚閾値が動いた。統計的に有意な差。

「信頼が引き金になる」

逆もある。

否定的な説明を受けたグループでは、副作用が跳ね上がった。偽薬なのに吐き気や頭痛が出る。

ノセボ効果。

「俺はな、あれは副作用じゃなくて、命令だと思ってる」

命令?

「脳が自分に言ってる。“症状を出せ”って」

その夜、帰宅してからもその言葉が離れなかった。

冗談半分で、試してみた。

手首に指を当てて、「心拍が上がる」と三回、声に出した。

最初は何も起きない。だが、しばらくして鼓動が早まるのを感じた。

偶然だと思った。

次は「落ち着く」と言ってみた。数分後、拍はゆっくりになった。

思い込みだ。そう言い聞かせた。

翌週、健康診断があった。

血圧はやや高め。医師は軽く言った。

「ストレスですね。続くとよくないですよ」

その帰り道から、胸の奥に違和感が出た。

軽い圧迫感。息苦しさ。

帰宅して血圧計を巻く。

数値はさらに高い。

「続くとよくないですよ」

あの声が、頭の中で繰り返される。

その夜、動悸が止まらなくなった。救急外来へ行くと、医師はカルテを見て首を傾げた。

「異常はありませんよ」

モニターの心拍は正常域。血液検査も問題なし。

だが俺の身体は、明らかに何かに従っている。

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