
冬の寒い夜、ゆりは40代に差し掛かっていた。15年も付き合っていた恋人、亮太に突然振られた。彼女は亮太からのプロポーズをずっと待っていたが、何も起きなかった。30代のある日、思い切って自分からプロポーズをしたこともあったが、亮太は「結婚したくない」と言い放ち、彼女の気持ちを踏みにじった。結婚したい思いを抱いたまま、ズルズルと時間だけが過ぎ、気づけば40歳を超えていた。時折、結婚の話を持ち出しても、亮太はいつも拒絶し、ゆりはついにその夢を諦めることにした。恋人としてでもいい、そんな妥協をするようになった。
そんなある日、彼から別れを告げられた。「申し訳ない、ゆり。たった一度だけ浮気をしてしまったんだ。相手が妊娠したと言っていて、結婚しなければならないんだ。お願いだから、別れてくれ」と告げられたのだ。15年の思い出が一瞬で崩れ去る。誕生日や記念日、特別な日々を共に過ごした彼との思い出が、今はただの痛みとなって彼女を襲う。
夜になると、ゆりは酒を飲むことでその痛みを和らげようとした。しかし、ある晩、彼女が酔っ払っていると、ベランダのカーテン越しに男の影が見えた。不審者かと思い、カーテンを開けたが、誰もいなかった。次の日も、翌日も、毎晩同じことが続いた。影は次第に濃くなり、やがて声を発するようになった。「酒をくれ」と。ゆりはその声に戸惑いつつ、ベランダに清酒を置くことにした。夜ごと、彼女が眠ると、その声が聞こえるようになった。
ある夜、ゆりはムシャクシャした気持ちで帰宅した。仕事でミスをし、帰り道には亮太とその妻が幸せそうに歩いているのを見かけた。彼女は心の中で怒りが渦巻く。どうして自分ではなく、あの女に幸せが訪れるのか。そんな思いを抱えたまま、彼女はベランダで酒を置くのを忘れていた。「酒をくれ」と影が叫ぶ。ゆりは思わず、「裕太を殺してくれないと、酒はやらない!」と叫んでしまった。
その瞬間、気づくと彼女は裸足で包丁を持って外に出ていた。混乱しながら、彼女は自分が何をしているのか理解できなかった。数日後、友人とお茶をしながらその話をした。彼女は「あの影は私の心の中の葛藤だったのかもしれない」と言った。結局、彼女はその後、別の男性と結婚し、幸せな家庭を築いた。しかし、あの影はどこへ行ったのか、友人は気になった。彼女は幸せそうに微笑むが、実際にはその影が彼女の人生をどう変えたのかはわからなかった。
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