
長編
髪の毛
匿名 2024年3月21日
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今だから言えるかなと思ってどこかで吐き出したくなったので投稿させていただきます。
これは私がまだ大学生だった頃、一人暮らしの部屋での話です。
当時住んでいた部屋は、とくに事前に事故物件だとか、いわくがあるだとかも聞いておらず、大学からも駅からも近くて家賃も平均的、おまけに下がコンビニだったので、田舎者の私は「一人暮らしっぽい建物だ!」と思いそこに決めました。
ざっくりとだけいうと、名古屋のとある場所です。
正直うちは母親が過干渉なタイプなので、その母親から開放されたような気持ちで、一人暮らしを始めてすぐの頃は正直かなり浮かれていました。
ですが、住み始めて2周間ほどでユニットバスの排水口の流れが悪くなり始めました。
まさかたった2週間で詰まるような使い方をした覚えはありません。
固形石鹸は使っていませんし、詰まらせるようなものを風呂場に持っていったような覚えもなく、使っていたものといえばシャンプー、コンディショナー、ボディーソープ、体を洗うためのタオル、それからバスタオル、どれもうっかり落としたからといって排水口の口にすぐ入っていくようなものではありません。
髪の毛が詰まることがあるとは聞いたことがありますが、私はボーイッシュなショートヘアでした。
おかしいな…と思いながらも過ごしていたのですが、ある日とうとう詰まってしまい、業者を呼んで見てもらうことにしました。
業者が入るその日、偶然近くまで来ていた母親が一緒に立ち会いました。
母親は少し不機嫌で、「ちゃんと掃除せぇへんからや!」だとか、「こんなことで業者呼んで恥ずかしい…!もう、うちの娘がすみませんねぇ…」という感じで私を叱りながら業者の人たちに頭をペコペコ下げていたのを覚えています。
確かに掃除は2〜3日に一回だったけど、そんなすぐ詰まるとは思わないから…と言い訳しながら待っていると、作業をしていた人が「うわぁ…」と声を上げたんです。
明らかに不快なものを見た、そんな声でした。
母親は「ほんと不潔ですみません!うちの娘が…」と駆け寄ったら、排水口の清掃をしてくれていたベテラン風の業者さんが、少し声を荒らげて「お母さん!これ娘さんじゃないですよ!」と言いました。
それにはさすがに私も首を傾げました。
なぜそう言い切れるのかわからなかったからです。
恐る恐る母と二人で覗き込むと、出るわ出るわ…排水口からズルズル…ズルズルと赤黒いサビのようなものが絡まった大量の髪の毛が引き出されてきます。
母は震える声で「うちの子が掃除しないから…」とまだ言っていましたが、たぶんあれは現実逃避でしょう。
1ヶ月弱であんなに大量の髪の毛が一人の人間から抜け落ちるとは到底思えませんでしたから。
ずっしりと髪の毛が詰まったゴミ袋は、メロンひとつ分くらいの重さがありました。
「私が住むまで清掃されてなかったってことですかね?」と聞くと、業者の人は「だとしてもこの状態で使えていたことが奇跡ですよ」と答えました。
その日は排水口が詰まることもなく、スッキリとシャワーを終えることができました。
ですが、それから翌月のことです。
休日で一人過ごしていると、インターホンが鳴りました。
なんだろうと立ち上がり、ドアに向かうその間にも、連打され、ドアを叩かれます。
恐る恐るドアスコープを覗くと、一階にあるコンビニの店員さんでした。
何事かと思ってドアを開けると、その男性は「あの、ちょっと外、バルコニー見てもらえます?」と慌てた様子で指さします。
私が部屋のバルコニーを見ると、なみなみと水が溜まっていました。
「あの、この水って何されてるんですか?」
「すみません私もちょっとわからないです…」
そう言いながらとりあえずあがってもらい、二人でバルコニーまで行くと、大量の髪の毛が私の部屋の前で雨樋に詰まり、隣の部屋のバルコニーに置かれた洗濯機から流れる排水が溜まっていました。
また髪の毛だ!と、怖くなったんですが、コンビニのお兄さんはそんな事情は知りません。
私に「あのね、こんなとこで髪の毛切ったらだめですよ…」と呆れた様子で溜息をついていました。
私じゃないですと言っても信じてもらえないので、とりあえず詰まった髪の毛を掃除して謝罪しました。
それから数日、大学からの帰り道にやけに騒がしいなと思い足を止めると、私が住んでいたアパートの前でコンビニ店員さんたちが忙しなく何かをしています。
近くに行くと、どうやら天井から水が溢れていました。
雨漏りとかそんなレベルではなく、水道管が割れたのかと思うくらい溢れています。
この間の店員さんが私に気が付き、引きつったような笑いを浮かべて近づいてきました。
「髪の毛ですよ」
「はい?」
「髪の毛、天井から出てて、引き抜いたらこれですよ…へへ…」
店員さんの手には、びっしりと、メロンひとつ分くらいの髪の毛が入ったビニール袋がありました。
あまりにも気持ち悪かったので、その夜は友達に泊まりに来てもらいました。
友達が「お風呂借りるねー」とユニットバスの方へ行くと、私は引っ越したほうが良いかなと考え始めました。
ですが考え始めてすぐ、友達が「ちょっと!」と私を呼びます。
もう今度は何事だと思いながらバスルームへ行き、友達が「あれ!なに!」と指さす方を見ると、壁一面に長い髪の毛が張り付いていました。
そのことを母に相談しましたが、いろいろと理由をつけては引っ越しは駄目だと言われました。
ただ、母は「女の子なんだから髪は伸ばしなさい!」と厳しく言うだけでした。
今はもうそこには住んでいませんが、住んでいる間、他にも様々な怪現象を目撃し、メンタルクリニックに通うようになり、片耳が難聴に悩まされるようになり、友達とも絶交してしまい、自殺未遂をしたことがあります。
事故物件ではないので、某有名な事故物件サイトで調べても出てきませんが、周辺でよく事故が起こる物件でした。
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