
長編
七代目の祟り
えい 2019年9月29日
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私達の知らない時代に、強い恨みを抱いて、酷い殺され方をした女性がいました。
これは、S家に続いた祟りの話。
S家に生まれた男性は25歳まで生きる事が出来ない…。また、女性は( 家族のみで無く、嫁がれた女性に対しても同様 )必ず、大病に見舞われ、その生死は、その人の持つ運で決まる…そんな言い伝えがあったそうです。
その話は、ある女性( Mさん )から、直接、私の方に連絡して来た方でした。
後に、この方は、S家に嫁がれた次男さんのお嫁さんだと分かりました。
その祟りの話を聞いたのは、次男さんが精神的に不安定になってしまった頃に、聞かされたといっていました。
初めは、信じなかったMさんも、地域の乳がん検診を受け、癌が見付かった事で怖くなったといって、私に連絡したのだと…。
この時、次男さんは既に他界していましたが、Mさんの夢に何度と無く出てきて、「助けてくれ。ここから、出してくれ!」と言われるのだそうですが、Mさんにはどうしようもなく、最近では良く眠れないのだと言っていました。
Mさんを視た限りでは、特別何かが憑いているとかいう事は無かったので、Mさんの住んでいる家とS家に向かう事にしました。
Mさんの家に上り、次男さんの部屋に入った時、窓に新聞紙が貼り付けてあったのを見て、これは?と聞くと、Mさんは次男さんが生きていた頃、窓から闇が迫ってくるといって、貼り付けてしまったものだと言いました。
少し剥がして、外を見ましたが、特別おかしな所は無く、次男さんが寝ていたベッドに近寄ると、凄まじい怒りと嘆きの念が渦巻いていました。
それは、次男さん一人のものでは無く、今まで命を落として来た大勢の人の念。
その更に奥に一人の髪の長い白装束を身にまとった女性がうつむいて座っている姿が視えました。
それから、S家へ行き外観だけ視て確信しました。七代祟ってやるぞという強い怨み。S家だけじゃなく、関わる者全てにまで向けられたもの。
再び、Mさんの家に戻り、先程の女性に語り掛けた。すると、頭の中にビジョンが流れ出す。
女性の名は、キク。その昔、S家に使えていた下女でした。
1年という長い年月を重ね仕事も慣れてきた頃、S家の息子達に、乱暴され、親父には言うなと脅され、幾度と無く酷い仕打ちにあい続けたある日、耐え兼ねた彼女は、女将さんに事の成り行きを全て話した。
しかし、女将さんは、「下女の分際で、息子達をたぶらかしたんだ。」と激怒し、折檻して、まだ息のある彼女を息子達と共に井戸に投げ入れてしまった。
丁度、S家の当主が地方へ出掛けている時だった。
当主が帰宅後、女将は「キクは病に掛かり里に帰した。」と当主に話していた。当主は心配したが、女将は、里に帰り静養すれば治るだろうといって、当主を納得させた。
井戸に投げ入れられたキクは、少ない力で必死に壁を爪を掛け這い上がろうともがいていた。
だが、度重なる折檻に数ヶ所骨折していた身体は冷たい井戸の水に冷やされ、やがて……。
死の間際、キクはS家へ恨み事を口にした。
それが七代に渡り祟るという事だった。
全てが分かると、再び、語り掛ける。
キクが話し出す。
「何度と無く人を呪い同じ苦痛を与え苦しめて殺し続けても、何一つ変わらない。消えない身体の傷や憎いと思った気持ちも消えてはくれない。
私は、いつまで呪えばいい?このまま呪い続ければ、いつかはこの気持ちも落ち着くのだろうか?」
泣きながら、キクは話した。当の昔に呪いは終わっているのだと悟るには、もう少し時間が必要なのかも知れない。
しかし、彼女自身、疲れ果てていて、上にあがるなら手伝う旨を告げ、何かして欲しい事は無いか?と訊ねると、キクは、花嫁衣装を着たいと告げて来たので、その願いをMさんを通して叶える約束をした。
後日、知り合いの貸衣装業をしていた店に行きMさんに、白無垢を着せて貰う。
姿見鏡に映った姿をMさん越しに、キクが見て涙を流した。それは、事の詳細を知ったMさんの涙でもあった。キクに起こった事はとても可哀想で痛ましい出来事…しかし時代は流れ現代に生きるMさんには、理不尽過ぎる出来事。
複雑な気持ちで鏡を見つめていたMさんが一言キクに告げる。
「とても綺麗だよ…キクさん。」
店内に柔らかい風が吹く。
先に亡くなった代々のS家の人々。そしてS家に関わり命を落として来た人々。全ての人が祟りという呪縛から解放されて行く。
その中にMさんの旦那さん( 次男 )の姿も視えた。
キクは、白無垢姿で笑っていた。流行り病で他界した両親の元へ帰って行く姿は、必死に仕事を覚えS家に奉公していた頃の生き生きとした笑顔で…。
S家に続いた祟りは消えました。
七代という途方もない長い々年月…。
キクは漸く、安らかな眠りに就くことができました。
一代は、60年。七代で、420年…。
どんな思いで時代の移り変わりを見てきたのか…?
それを思うと少しだけ、切なくなりました。
後日談:
- Mさんは、残念ながら去年亡くなりました。 乳房を片方取る手術をしてから、2年後の初夏に、その生涯を綴じました。( 享年 27歳 ) 心からのご冥福をお祈り致します。
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