
長編
京都の夜の噺
匿名 2日前
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速道路が整備されていなかった当時は、山陰と東海地方を結ぶルートとして、夜間はトラックなど物流車両の通行が多かった峠です。
老ノ坂峠に差し掛かった時には既に午前1時半頃になっていました。峠の頂上にはトンネルがあり、タンデムされている友人の話では、このトンネルを通行中にバイクのバックミラーを見ると、後ろに女の人が乗っているというのです。
「ほんならタンデムされてるお前の後ろに、もう一人乗せることになるやん。定員オーバーやで!」
などと軽口をたたき、こんな話、だれも信じていませんでしたが、それでも皆内心はビクビクしていたと思います。
先頭をタンデムした友人が走り、私はその3台後方をしんがりとして付いて行きます。トンネルに入り、後続車も先行車もなく、私たちはゆっくりと走りました。ほとんどミラーばかり見て走って行きます。
亀岡市側に出てバイクを止め、皆に聞いてみましたが、ミラーの中に女性を見た人はいませんでした。
そこでターンをし、再びゆっくりと、今度は亀岡市側から京都市に向かってバイクを走らせました。
しかし、今度もだれもミラーの女性を見ることはできませんでした。ホッとしたような、少し残念なような・・・
時計の針は2時を少し回っていました。
その後、4台はゆっくりと安全運転で無事に下宿まで帰ることができました。
下宿前の駐輪スペースに並べて止め、私たちはバイクを降りました。
「なんや、期待してたのにスカ食ろた気分やな」
そんな強がりを言いながら、バイクを振り返ると、一瞬、血の気が引く感じを受けました。
私たちは、全員125cc~400ccのバイクに乗っています。バイクは他の下宿人のものも併せて10台止められているのですが、手前の4台、つまり私たちが今止めた4台だけが、すべてタンデムステップが開いているのです。
特に、私のバイクは当時流行りのレーサーレプリカで、シングルシートカウルが装着してあり、タンデムステップは付いていても開いたことはありません。なのに・・・そして、先頭を走っていたバイクはタンデムの人が降りた後、タンデムステップを閉じるのをこの目で見ていました。
何か胸の中に冷たいものを感じ、それ以降だれもこの日のことを口にすることはありませんでした。
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