
長編
私の母校
匿名 2019年5月1日
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これは私が小学生の頃に体験した話。
部活動に所属していた私は、毎日暗くなるまで部員達と練習に励んでいた。
学校が田舎にあるためか、その当時は外灯の照明設備など無く、暗くなるまでが練習時間だった。
特に私のいた部活動は成績を残していたためか、他の部活動よりも終了時間が少し長くなることもあった。
もちろん部活動中のトイレ休憩などは校舎内で済ませなくてはいけないのだが、部活動生だけになると校舎内の照明は消灯され、真っ暗な廊下を歩いていかなくてはならない。
幸いというべきか、校舎内入ってすぐの場所に水飲み場もトイレもあるのだが、必ず友達と行くようにしていた。
と言うのも、その学校には怪談話があり、しかもその場所が近場の水飲み場やトイレで起こる話だったのだ。
トイレの鏡に映る何か、水飲み場前の教室で見る首吊り死体。
挙げ句には、墓地を埋め立てて建てられた学校、なんていう話まであったのだ。
ただでさえ真っ暗な学校は不気味なのに、そんな話まで聞いてしまっては1人で校舎内に入ろうなどとは誰も思わない。
そのため複数人で行動するようにしていたのだ。
とは言え、怪談話があれども複数人で行動すれば恐怖も薄れるし、当時の私は足の速さには多少の自信があったので、いざとなれば逃げることも可能だろうと考えていた。
そんなある日いつも通り部活動を終え、皆と迎えを待とうと歩いていた時、ある事に気付いた。
ランドセルを開け、中を覗いてみるが案の定入っていない。
(宿題を教室に忘れた)
当時の私は忘れ物が多かったため、教科書を置きっぱなしにして帰っていたのだが、いつもの癖で教室に置いてきてしまったのだ。
今なら適当に言い訳を作るなり、朝早く学校に行って宿題を終えるなりするのだが、その時は取りに戻るという選択肢しか頭になかった。
誰もいない真っ暗な校舎、ましてや怪談話まである校舎に自ら足を踏み入れなくてはならない。
その恐怖は絶望にも似た感覚だったように思える。
そこまで怯えておきながら先生に付いて来てもらうことも、友達に付いて来てもらうことも、何だかカッコ悪いような気がして、忘れ物したから取って来る、と軽い感じで友達に伝えて1人で校舎に向かった。
私の教室は南門から見て、2階の1番左奥にある。
私のいた位置は東門なのだが、校舎の端から端と言える距離を移動しなくてはならなかった。
足は恐怖で震え、頭の中は真っ白の状態だったが、ふと、私は教室まで全力で走ってしまおうと考えた。
普段は校舎内を走れば怒られるが、今学校にいる先生は私の部活の顧問だけ。
しかも外にいるのだから誰も私を怒る人などいないと考えたのだ。
そうと決まれば話は早い。
ランドセルを置いた私は、意を決して走り出した。
校舎内を全力で走ったのはこの時が初めてだったが凄い速さでドアや窓が通り過ぎて行く。
今何かが出てきたとしても私は気付くことなく通り過ぎて行くだろうし、最悪衝突してどちらもただでは済まないだろう。
そう考えると、誰にも私を止めることは出来ないのだと思えて無性に楽しくなってきた。
そんなことを考えてる間に私は教室に辿り着いた。
当時は教室の施錠も特に行われていなかったため、すんなりと私は宿題を手に入れた。
その時には恐怖心など微塵もなく、むしろ高揚感に満たされていた。
(さて、戻ろうか)
そう思って、教室を出て再び走ろうとした時
「ゴリ‥ゴリ‥ゴリ‥‥」
そんな音が聞こえた。
(何の音だろう?)
音は私の後ろから聞こえている。
後ろを振り向いて音のする方を確認するとそこは壁。
その壁に何かいる。
何かは分からない。
分からないけれど、その何かは壁に頭の部分を擦り付けているように見えた。
その時、雲に隠れていた月がそれを照らした。
それは、人だった。
少なくとも、形は。
壁に頭を擦り付けている人。
それだけで十分に奇妙だが、何か床にボトボトと落ちる音が聞こえていた。
擦り付けてる壁を見ると、何やら濡れているように見えた。
多分だが、削っていたのだろう、頭を。
オカシイ、と思考が追い付いた瞬間には身体はもう動いていた。
来た道を全力で走る。
アレが何かなんてどうでもいい。
とにかく早く校舎を出ないといけない。
忘れていた恐怖が蘇り、ただただ振り返らずに全力で走った。
(この階段を降りてしまえば‥‥!)
「ア‥‥‥」
降りた階段のすぐ右側から声のようなものが聞こえて、私は反射的に声と逆方向に飛び退いた。
勢いのまま壁にぶつかる私。
(何‥‥!?)
驚いた私は、壁にぶつかった身体もそのままに急いで声の方に顔を向けた。
「こんな時間に何をやっているんだ?」
追い掛けてきたと思ったモノは、顔は見えないがどうやら見廻りの先生だったようだ。
安堵感からその場に座り込んでしまいそうになったが、走ったことがバレて怒られるのではないかと違う意味での恐怖を覚えた。
「宿題を教室に忘れて‥‥」
「あぁ、そうか。もう遅いから早く帰りなさい」
そう言われ、挨拶をして渡り廊下を歩いて東門の玄関口に向かった。
そう、怒られないように歩いて向かうつもりだった。
私はまたしてもその場から全力で走り出した。
この校舎には先生はもう私の顧問しかいない
仮に他の先生が残っていたとして、懐中電灯も持たずに見廻りをする先生などいるだろうか。
そもそもあの先生は一体誰だ。
私はあの声の先生を知らない。
何より、あの場所は、首吊り死体があると言われている教室の入り口だったから。
1階の渡り廊下は低い壁を乗り越えれば外にそのまま出ることが出来る。
靴を脱いでいたため、靴下ではあったが一刻も早く校舎から出たくて、私は壁を乗り越えた。
その時に見てしまった。
先程、先生のようなものに出会った教室の中で天井からぶら下がる何かを。
私は泣きそうになりながらもとにかく走った。
東門の玄関口に辿り着いた時には、部員が帰ってしまった東門で私の母親と顧問が私を探しているようだった。
その姿を見て私は安堵した。
ほんの10分程の出来事だったのに、私には長く長く、終わりがないかのような時間だったように思えたから。
その後、母親に怒られながら私は車に乗り込み家路に就いた。
一応顧問に確認してみたが、やはり校舎内には顧問しかいなかったようだった。
夢でも見たのかな、なんて考えながら南門の前を通過した時、門の向こう側に、頭の部分がグチャグチャになっている何かがいたように見えた。
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