本当にあった怖い話

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返して…
長編

返して…

匿名 2015年2月1日
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ご本人の言い方をあまり変えずに、実際に体験したというお話をお伝えしたいと思います。 ― 当時26歳だった、本山武さん(仮名)のお話です ― 当時、独身サラリーマンだった僕は、道路に面した小さな一戸建ての住宅に住んでいました。 玄関のドアを開けると、ほとんど目の前が道路という、敷地面積ぎりぎりに建てたのだと一見してわかるような家でした。 しかし、家賃の安い割には交通の便がよい場所にあり、安月給の僕には、そう悪くもない条件だったのです。 あの日、数日間の出張から帰ってみると、僕の家の前の路面に、脇にある電柱から玄関にかけて、大きく黒っぽい染みのようなものがついていました。 「誰かが何かをこぼしたんだろう」ぐらいに思った僕は、深く考えることもなく、家に入りました。 その夜のことです。 ドンドンドンドン、という物音で、僕は目が覚めました。 時計を見ると午前3時です。 いったいなんだろう、と不審に思いながら、僕は玄関に出てみました。 すると、安普請の薄いドアが揺れるような勢いで、何者かが外側からドアを叩いているようです。 「……何の用ですか?」 僕は玄関の明かりをつけると、ドアの前に立って、向こう側に呼び掛けました。 しかし、その何者かは僕の声が聞こえなかったのか、返事もせず、いっそう激しくドアを叩き続けるのです。 放っておけば、ドアが破られそうな勢いでした。 ドアの覗き窓から見ると、ドアの前に居るのは若い女のようでした。 一瞬、子供かと思った程背が低く、上の方にある覗き窓からは、頭のてっぺんしか見えません。 女は、僕が覗いている気配に気付いたらしく、叩くのをやめ、上を向いて覗き窓のほうへ、ぐっと顔を寄せてきました。 血の気が引いたように白い顔が、いきなり魚眼レンズいっぱいに広がり、僕は驚いて後退りました。 「こんな時間にすみませんけど、お願いですから、助けてください」 切羽詰まった声が聞こえてきました。 何やら、ただならぬようです。 僕はチェーンをかけたまま、細くドアを開けました。 そのロングヘアの頭は、僕の胸のあたりまでしかありませんでした。 息を切らし、引きつったような表情で、上目遣いに僕を見ています。 「いったい、どうしたんですか?」 「大切なものを、この家の前でなくしてしまって。でも、暗くて、いくら探しても見つからないんです。一緒に探してください。お願いします……」 隙間からじっと僕を見ている女の目は、異様なまでに見開かれ、充血していました。 「いったい、何を探しているんですか」 「あたしの、足を……」 「足?」 反射的に僕は、女の足もとに目をやりました。 すると、女の膝から下がぶっつりと千切れていて、その端はぐしゃぐしゃにつぶれ、皮膚のはがれた赤黒い筋肉の下からは、血にまみれた骨のようなものが覗いています。 もちろん、コンクリートのたたきには大きな血溜まりができ、そうしているあいだにも、赤黒い染みがジワジワと、玄関の内側、僕の足もとのほうへ向けて広がっていたのです。 僕が悲鳴をあげると、女は急に、激しくドアを外側から引きました。 しかし、ガツンという音とともに、かけてあったチェーンが引っ掛かりました。 それに気付いた女は、隙間から手を差し入れ、チェーンを外そうとします。 僕は死に物狂いでドアを閉めようとしました。 しかし女の手が、がっちりと挟まっていて、閉めることは出来ません。 女は両手をドアにかけながら、隙間に物凄い形相をした顔を押し付け、金切り声をあげて絶叫しはじめました。 「あたしの足を返して! あたしの足を返してぇぇ‼」 僕はなんとかして、ドアにかかった女の指を引きはがそうとしましたが、女も恐ろしい力でドアをつかみ、離れようとはしません。 薄いドアが壊れてしまうのではないかというような必死の攻防の結果、僕はなんとか女の手を押しやり、無理やりにドアを閉めました。 それでもしばらくの間、女はドアを叩きながら叫び続けていました。 僕は恐怖のあまり、声が聞こえなくなったあとも、背中でしっかりとドアを押さえて立ちすくんでいました。 やがて夜が明け、新聞配達の物音が聞こえる頃になって、初めて、僕はチェーンをかけたまま、恐る恐るドアを開けて外を見ました。 すると、女が立っていたあたりのコンクリートには、べったりと赤黒い染みが残っていて、昨夜の出来事が夢でなかったことを、僕は改めて思い知らされたのです。 後日、近所の商店で聞いた話ですが、ちょうど僕が出張に出ているあいだに、僕の家の真正面の路上で交通事故があり、若い女がトラックの車体と電信柱のあいだに挟まれ、膝から下を切断されたのだということでした。 引きちぎられた脚はズタズタになり、それは無惨な状態だったそうです。 彼女は運ばれた病院で亡くなったそうです。 あの出来事以来、僕は悪夢にうなされることが多くなり、しばらくして、その家を引っ越しました。 ここまでが彼の話です。 彼は引っ越したあとも、悪夢から解放されることはなく、更には、幻覚なのか夢なのかの判断も出来ないほどになり、現在は精神の療養所で生活しています。

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