
長編
自殺者の心理
しもやん 3日前
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わたしにはつい最近まで交際していた女性がいた。
とてもよい関係で、将来を見据えた付き合いとして始まったのだが、ひと月前ほどに一方的に交際終了を告げられた。
理由は先方の両親の介入である。わたしの出自が下賤なのが気に入らないのだという。
* * *
クリスマスイヴの日、わたしは山へ入っていた。前日に大寒波が襲来し、多量の積雪が期待できるという山屋にとっては理想的な環境であった。人恋しさを紛らわせる目的で下手に街へ出れば、カップルの海で溺死するのは目に見えている。こういうときは絶対に誰も訪れないマイナーな山へこもり、自分を見つめなおすに限る。そう思っての山行であった。
ルートは以下の通りである。岐阜県揖斐川町春日村にあるモリモリ村に車を駐車→尾根にとりつく→槍ヶ先(北アルプスの槍ヶ岳と一字違いなのに留意。はるか格下の山である)→稜線を北上→適当なところでドロップ→林道合流→林道南下→スタート地点に復帰、であった。どの地点をとっても正規の登山道のない、完全なバリエーションルートである。処女雪をラッセルするには絶好のコースだ。
10:00ジャストに登り始めると、いきなり数センチメートルの積雪に出くわした。まだ標高にして100メートルにも達していない。これはかなりの積雪が期待できそうだった。見込み通りどんどん雪は増えていき、標高700メートル付近からは膝下程度にまで増加、槍ヶ先直下では雪のなかを泳いでいるような塩梅であった。
2時間近くかけて12:10、槍ヶ先(965メートル)に到達。山頂からは伊吹山北尾根の見事な山容が見渡せ、若干見切れていたものの滋賀県最高峰である伊吹山(1,377メートル)本峰も遠望できた。気分はこれ以上ないほど沈んでいたが、寒波襲来後の好天に恵まれた銀嶺はため息が出るほど美しかった。
稜線に乗ってからも積雪はたっぷりあり、わたしは終始雪のなかを泳ぎ続けた。気温は昼過ぎでも氷点下を下回っており、足の感覚は麻痺し、注意力は徐々に薄れていく。機械的に雪のなかを泳いでいると、わたしの意識は交際終了を告げられた恋人へと向かっていった。
* * *
彼女の家系は非常に高尚な由緒があり、男性は全員が有名大卒、おまけにルーツは〈大岡裁き〉で有名な大岡越前あたりにあるらしい。彼女本人も大学を副総代として卒業した才媛であった。
いっ
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- 縁が無かった、それだけです。貴方様の魅力に気付いてくれる運命の人は必ず居ますから。命が勿体無いったらありゃしない。うんこりん
- とことん生きて下さい。人間は知恵が付き過ぎて、生きることの意味を複雑にしすぎていると思うのです。 天寿を全うして下さい。boildegg
- この文才を失うのは惜し過ぎる。 遺作にならない様お願いします!!1人で寝れない