
私が通っていた中学校には、昔から変な噂がありました。
放課後、誰もいないはずの体育館から、ボールの跳ねる音が聞こえる。
それだけ聞くと、よくある学校の怪談みたいに思えるかもしれません。実際、私も最初はそうでした。誰かがふざけているとか、先生が片付け忘れたボールが転がっているとか、その程度にしか考えていませんでした。
でも、その音は明らかにおかしかったんです。
体育館は、校舎の一番端にありました。部活が終わると顧問の先生が鍵を閉める決まりで、鍵は職員室に戻されます。夜に生徒が勝手に入れるような場所ではありません。
それなのに、夕方遅くになると、時々聞こえるんです。
ダン、ダン、ダン。
一定の間隔で、ボールが床を打つ音。
バスケットボールのような、少し重くて乾いた音でした。
私が初めてその音を聞いたのは、中学二年の秋でした。
文化祭の準備で遅くまで残っていた日です。教室で友達二人と模造紙に文字を書いていると、廊下の奥から、かすかに音がしました。
ダン。
最初は気にしませんでした。
でも少し間を置いて、また。
ダン。
友達の一人が顔を上げました。
「今の、体育館じゃない?」
その時点で、時刻はもう六時半を過ぎていました。外は暗く、運動部も全員帰った後でした。廊下の電気は半分消されていて、校舎全体がいつもより広く、冷たく感じました。
私たちは、怖いもの見たさで体育館の方へ行ってみることにしました。
今思えば、行かなければよかったと思います。
体育館へ続く渡り廊下に入ると、音ははっきり聞こえるようになりました。
ダン、ダン、ダン。
誰かが一人でドリブルしているような音でした。
でも、変だったのは、その音がまったく乱れないことでした。普通、人がボールをついていれば、強くなったり弱くなったり、少しずつ間隔がずれたりします。
その音は、まるで録音を繰り返しているみたいに、同じ間隔で続いていました。
体育館の前まで来ると、扉の小窓から中を覗きました。
中は真っ暗でした。
ステージ側の非常口のランプだけが、ぼんやり緑色に光っていました。体育館の床はうっすら見えましたが、人影はありません。ボールも見当たりません。
それなのに、音だけは中から聞こえていました。
ダン。
私たちは何も言えませんでした。
友達の一人が、震えた声で言いました。
「中、誰もいないよね」
その瞬間、音が止まりました。
後日談:
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